特別講演Ⅰ
岩手医科大学 放射線腫瘍学科 教授 有賀久哲 先生
被曝事故から考える放射線の人体影響と防護の再考
放射線は、現代医療における診断・治療の両分野にわたって不可欠な診療技術であり、診療放射線技師は日常的に放射線を扱う専門職です。一方で、実際に高線量被曝や急性・晩期放射線障害を経験する機会は極めて少なく、放射線の人体影響については、法令、線量限度、数値管理を中心に理解される場面も少なくありません。近年は、我が国における医療被曝の相対的な高さを背景として、医療被曝の記録、線量最適化、診断参考レベル(DRL)への対応などが強く求められていますが、放射線防護が、生体反応や医学的なリスク・ベネフィットとの関係を十分に意識しないまま、「ルール遵守」として理解されがちな側面もあります。
本講演では、東海村JCO臨界事故における初期対応の事例をもとに、高線量全身被曝時に人体で何が起こるのか、また放射線医療従事者としてどのように対応すべきかについて概説します。急性放射線症候群、造血系・消化管などの再生系組織障害、感染・炎症反応、DNA損傷と修復、生体防御機構などを通じて、放射線影響を物理・化学・生物・臨床の各側面から時間軸に沿って整理します。また、事故被曝と医療被曝の違いについても触れ、線量、線量率、局所性、医学的利益などの観点から、放射線医療におけるリスクとベネフィットについて考えたいと思います。
さらに、日本における放射線診断・放射線治療の現状や、放射線防護の基本的な考え方についても再確認します。放射線を単に恐れるのではなく、その人体影響を科学的に理解した上で、必要な放射線医療を安全かつ適切に提供し、不要な被曝を低減することが、持続可能な放射線医療を考える上でも重要です。医療者には、患者や家族に対し、放射線医療の利益とリスクをわかりやすく説明し、不安に配慮しながら診療を行う姿勢も求められています。本講演が、日常診療における放射線医療や医療被曝管理を改めて考える契機となれば幸いです。
特別講演Ⅱ
岩手大学名誉教授 青井俊樹 先生
ツキノワグマの生態と地域ぐるみの被害防除
-岩手県のある集落のチャレンジー
昨今のクマ類の里地への相次ぐ出没はかつてない規模で発生しており、地域の人々の安寧な生活が脅かされるほどである。しかしその割にはクマの生態に関する情報や、被害防除に関する対応や体制はまだ不十分で、時には誤った情報も流布している。そこで今回は話を二部に分け、前半はツキノワグマの生態を、後半は地域をあげて対策を実施してクマ被害を抑え込んだ、岩手県内のある集落の実例を紹介し、クマとの共存のあり方について考えてみたい。
第一部:その生態はいかに?-ツキノワグマあるある、どこまでホント?-
第二部:クマ被害を防ぐには?-人との共生を目指して-