一般演題抄録
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10月11日(土)
10月11日(土) 10:00~11:00 第1会場
【セッション1】 CT Deep Learning・AI 座長:高野 博和(東北大学病院)
01: Deep Learningを応用した体動補正技術の基礎的検討
野村 遼真1, 千葉 工弥1, 佐々木 忠司1
1) 岩手医科大学付属病院 中央放射線部
【背景・目的】従来、心拍動や息止め不良によるモーションアーチファクトは画像診断能に影響を及ぼしてきた。当院では2024年7月よりAquilion ONE / INSIGHT Editionが導入され、Deep Larningを応用した体動補正技術としてCLEAR Motionが稼働した。CLEAR Motionは肺野領域におけるモーションアーチファクトの低減に有効とされる。しかし、造影検査においてCLEAR Motionを用いた画像は血管等のCT値低下が散見される。そこで本研究は、CLEAR Motionが画像に与える影響について検討した。
【方法】CT装置はCanon社製のAquilion ONE / INSIGHT Edition、ファントムはSun Nuclear社製のMulti-Energy CT Phantomを使用した。撮影はHelical scanでおこない、管電圧120kVp、回転時間0.5s/rotに設定した。管電流は200mAを基準として段階的に増加させた。ファントムは静止状態(寝台にそのまま置く)と動態状態(インジェクターとシリンジを利用してファントムを動かす)で撮影した。得られた画像のCT 値、CNR:Contrast to Noise Ratio、NPS:Noise Power Spectrumを比較した。
【結果】CT値はファントムの挙動およびCLEAR Motionの有無に関らず一定の値を示した。CLEAR Motionの適用によりCNRは低下した。また、NPS測定では全周波数領域で増加し、特に低周波数領域で顕著であった。同等のノイズ特性の画像を取得するには約2倍の管電流を要することが判明した。
【結論】CLEAR Motionの使用によりノイズは増加し、未使用時の画像と同等なノイズ特性の取得には約2倍の線量が必要となる。CLEAR Motionはモーションアーチファクトの低減に有効だが、被ばくと画質の両方を考慮する必要がある。
02: Pericoronary adipose tissue attenuationの計測プログラムの開発とAIセグメンテーションの精度評価
服部 雅之1, 木下 大資2, 湯浅 哲也3, 鈴木 幸司1
1) 山形大学医学部附属病院 放射線部
2) 山形大学医学部附属病院 内科学第一講座
3) 山形大学大学院理 工学研究科
【背景】冠動脈周囲脂肪組織(Pericoronary Adipose Tissue: PCAT)のCT値変化(PCAT attenuation)は、冠動脈疾患の新たな画像バイオマーカーとして注目されている。炎症により脂肪形成が抑制されCT値が上昇するため、PCAT attenuationは局所炎症の間接的指標とされ、動脈硬化やプラーク不安定化、心血管イベントとの関連が報告されている。PCAT attenuationは-190~-30 HUの平均値で算出されるが、中心線抽出や計測領域設定などの手動操作により再現性に課題がある。そこで本研究では、PCAT attenuationを簡便かつ高再現性で測定可能なプログラムを開発した。さらに深層学習による冠動脈セグメンテーションを導入して測定精度と作業効率の向上を図った。
【目的】PCAT attenuation計測プログラムを開発し、深層学習モデルによるセグメンテーション精度が測定結果に与える影響を検討する。
【方法】オープンソースで公開されている匿名化された600例の冠動脈CT画像と冠動脈のラベル画像を用いて複数の深層学習モデル(3D-UNet、Attention-UNet、Dynamic-UNet)を訓練した。次に訓練済みモデルにテスト画像を入力し、得られた10例の右冠動脈セグメンテーションを行い、本プログラムによりPCAT領域の抽出と平均HU値の算出を行った。比較対象として、Total Segmentator (TS)によるセグメンテーションも行い、同様に算出した。精度評価は、正解ラベルデータを基準としたDice係数、およびPCAT attenuationの絶対値誤差 (HU)を算出し比較した。
【結果】TSでは冠動脈の抽出精度が低く、計測が困難であった。一方、深層学習モデルは高い精度で冠動脈を抽出し、安定して解析可能であった。Dynamic-UNetが最もよい結果を示し、平均Dice係数は0.88±0.041、PCAT attenuationの絶対値誤差は0.32±0.39 HUであった。
【結論】本プログラムによりPCAT attenuationの簡便な測定が可能であり、セグメンテーション精度の向上により、さらなる測定精度向上が期待される。
03: 深層学習再構成におけるFOVサイズが頭部CTA画像に与える影響
山田 一翔1, 佐々木 彰宣1, 千葉 工弥1
1) 岩手医科大学附属病院 中央放射線部
【背景】当院では、CTプロトコールを従来の再構成方法である逐次近似応用再構成(HIR:Hybrid iterative reconstruction)から深層学習再構成(DLR:Deep Learning Reconstruction)へと移行を進めている。DLRは、鮮鋭度を維持したままノイズ低減を行えるため画質の向上が見込まれる。しかし、再構成FOVサイズによる依存性があると報告されている。当院の頭部CTA撮影では、FOVサイズを頭部全体と血管評価のために拡大した画像の2種類を提示しているため、臨床に導入するにあたり画質評価をする必要がある。
【目的】頭部CTAにおけるFOVサイズとDLRの画質の関係について評価した。
【方法】CT装置はAquilion ONE PRISM Edition(CANON MEDICAL SYSTEMS)を使用し、CT装置用造影血管ファントム(京都科学)を臨床条件と同一となるように30回撮影した。画像再構成は、HIRとDLRをFOV240mmと120mmに設定した。評価方法は、NPS:Noise power spectrumと模擬血管のCT値を測定した。解析はCT measureとImageJを用いてプロファイルカーブを作成した。
【結果】FOVサイズによるNPSは、HIR、DLRともにFOV240mmで低下していた。画像再構成の違いによるNPSはFOV240mm、120mmともにDLRで低下していた。FOVサイズによるCT値は、HIRではFOV120mmのCT値が高くなった。DLRではFOV240mmのCT値が高くなった。画像再構成の違いによるCT値は、FOV240mmではCT値に大きな差はなかったが、FOV120mmにおいてはHIRのCT値が高くなった。
04: 頭部単純CT画像の解剖学的標準化のための深層学習による骨領域抽出
学生 兼田 璃乃秋1, 長谷川 美侑1, 高橋 規之1, 安保 哉太2, 篠原 祐樹2
1) 福島県立医科大学 福島県立医科大学
2) 秋田県立循環器・脳脊髄センター 放射線科診療部 放射線診療部
【目的】我々は,頭部単純CT画像における脳出血診断支援システムの開発を検討している.その処理過程において,解剖学的標準化の前処理として骨領域の抽出が必要となる.しきい値処理による抽出処理では,高信号を呈する出血領域も同時に抽出する可能性がある.本研究では,頭部単純CT画像に対して,深層学習であるU-netモデルを用い,骨抽出を行った.
【方法】対象は, 30例の頭部単純CT画像で,正常,脳出血,くも膜下出血の各10例から構成された.骨領域の抽出には, 2D U-netモデルを使用した.すべてのCT画像をグレースケール画像として保存し,U-netモデルの入力画像とした.教師画像は骨領域をマニュアルで抽出し,値化処理により作成した.全CT画像30例(754枚)を訓練用20例(511枚)とテスト用10例(243枚)に分割し,初めに訓練用20例を用いて5分割交差検証を実施した.骨領域の抽出精度は,dice係数とintersection over union (IoU) により評価した.最後に,5分割交差検証でdice係数とIoUのスコアが最も良好であった学習パラメータを用いて,テスト用画像の骨領域抽出を行った.
【結果】テスト用画像例に適用した結果,dice係数は平均0.96,IoUは平均0.92となり,高い精度で骨領域を抽出することができた.また,脳出血とくも膜下出血の各症例で,出血領域が抽出されなかったことを視覚的に確認した.
【結論】U-netモデルを用いることで,出血領域を抽出することなく高精度に骨領域を抽出できることが示された.
05: AI技術を活用した自動位置合わせ機能の基礎的検討
千葉 和勝1, 千葉 工弥1, 佐々木 忠司1
1) 岩手医科大学付属病院 中央放射線部
【背景】CT検査におけるAI技術を活用した撮影範囲の設定は、低線量ヘリカルスキャン(3D Landmark scan:以下3DL)で撮影した位置決め画像をもとに、臓器や骨などの位置情報を解析し、自動で撮影範囲を決定する仕様となっている。
【目的】撮影範囲の設定においてAI技術を活用した自動位置合わせ機能(Anatomical Landmark Detection:以下ALD)の特性を把握し、ALDと放射線技師が設定した撮影範囲の比較について検証した。
【方法】CT装置はキヤノンメディカルシステムズ株式会社製 Aquilion ONE / INSIGHT Editionを使用し、腹部ファントムを撮影した。①3DLの開始位置を固定して撮影した場合のALDの挙動について検証した。②管電流を10mAから700mAまで変化させた場合のALDが表示する撮影上端の位置から横隔膜までの位置を計測した。③臨床におけるALDを用いた位置決め画像において、ALDと放射線技師が設定する撮影上端の位置から横隔膜までの位置を比較した。
【結果】腹部ファントムを用いて3DLで撮影した位置決め画像におけるALDの検証では管電流に影響を受けることがわかった。管電流の値によって安定した挙動や特異的な結果を示す傾向が見受けられた。ALDを用いることで横隔膜の位置からある程度のマージンをとった撮影範囲を表示することが可能であった。臨床画像における位置決め画像の範囲設定の比較では、撮影上端の位置から横隔膜までの距離はALDの方が短く、放射線技師が設定した範囲の方が長かった。
【結語】ALDによる自動位置合わせ機能の特性を評価した。ALDを使用するにあたり撮影範囲の調整が必要な場合もあるため、最終的には放射線技師が撮影範囲の調整や確認をすることが望ましいと考えられた。
照井 諒真1, 野村 遼真1, 千葉 工弥1, 佐々木 忠司1
1) 岩手医科大学附属病院 中央放射線部
【背景】当院では、逐次近似応用再構成と深層学習再構成を併用している。骨の描出には前者を用いているが、骨密度などの患者要因やノイズの増加により3D作成の元画像として適さない場合がある。【目的】 骨条件における逐次近似応用再構成と深層学習再構成の画質を比較評価し、簡易的かつ再現性の高い3D作成を行うための有用性について検討した。
【方法】CT装置は Aquilion ONE / INSIGHT Edition (CANON MEDICAL SYSTEMS社製) を用い、撮影条件は臨床で用いるプロトコールとした。画像再構成方法には、逐次近似応用再構成:AIDR 3D Bone、AIDR 3D Bone Sharpと深層学習再構成:AiCE Boneを用いた。 画質評価は TOSファントム を撮影した画像からCT measureを用い、TTF (Task Transfer Function) と NPS (Noise Power Spectrum)を測定した。視覚評価は自作ファントムを撮影した画像から3D画像を作成し、4段階のスコアリングを行った。
【結果】 10%TTFは、深層学習再構成が最も高い値を示した。NPSは、逐次近似応用再構成と比較して深層学習再構成の値が低下し、特に中周波数領域においてその差が顕著であった。 視覚評価では、深層学習再構成の点数が高い結果となった。
10月11日(土) 11:00~11:50 第1会場
【セッション2】 CT 性能評価 座長:山本 隆史 (青森県立中央病院)
07: 人体等価全身ファントムを用いた胸部CT撮影時の画質と乳房線量の評価
学生 木村 江那1, 菅野 友結1, 福田 篤志1
1) 福島県立医科大学 保健科学部 診療放射線科学科
【背景】CT検査は胸部X線撮影より被ばく線量が多いため,十分な画質を維持しつつ,可能な限り被ばく線量を低減させる必要がある.【目的】人体等価全身女性ファントム(全身ファントム)の胸部をCT撮影し,CTDIvolの増減に伴うContrast-noise ratio(CNR),Figure-of-merit(FOM),乳房表面の空気カーマを調査することを目的とする.
【方法】全身ファントム(ATOM phantom, SUN NUCLEAR)の左肺上葉に画像評価用インサート(CT imaging QAキット, SUN NUCLEAR)を挿入し,CT装置(SOMATOM go.Top, SIEMENS)の寝台上に配置した.Effctive mAsを25-150 mAsまで25 mAs毎に変化させて撮影し、Filtered back projection法によって画像再構成を行った.その後,ImageJを用いてCT値,標準偏差を計測し,CNR,FOMを算出した.同様に左乳房の上下内外側に光ケーブル式リアルタイム線量計(RD-1000, トーレック)を4つ貼付して,同条件下にて乳房表面の空気カーマを計測した.取得したCTDIvolに対するCNR,FOM,乳房表面の空気カーマ,乳房表面の空気カーマ/ CTDIvolをプロットし,ピアソンの積率相関係数を算出した.
【結果】CTDIvolに対するCNR,乳房表面の空気カーマには正の相関が見られ,相関係数はそれぞれ0.92(傾き0.8),0.93(傾き 1.1)であった.FOM,乳房表面の空気カーマ/CTDIvolに関しては,CTDIvolの増加に伴う変化は見られなかった.
【結論】本研究の条件下ではCNRはCTDIvolの増加に伴い直線的に増加し,CTDIvolの約0.8倍で推定できる.乳房表面の空気カーマも同様に直線的に増加し,CTDIvolの約1.1倍で推定できることが判明した.
08: 人体等価全身女性ファントムを用いた頭部CT撮影時における画質と水晶体線量評価
学生 菅野 友結1, 木村 江那1, 福田 篤志1
1) 福島県立医科大学 保健科学部 診療放射線科学科
【背景】脳梗塞の早期診断において,CT画像は重要な役割を持つ.また,頭部CTを撮影する上で,水晶体は放射線感受性が高く,線量管理が重要な臓器である.
【目的】頭部CT画像を撮影し,画質の検討と水晶体表面の空気カーマ(水晶体線量)を調査することを目的とする.
【方法】X線CT装置(SOMATOM go.Top, Siemens社)の寝台上に配置した人体等価全身女性ファントム(ATOM Dosimetry Phantoms, Sun Nuclear社)にCT imaging QA Kit(Sun Nuclear社)を挿入し頭部CT撮影を行った.Effective mAs値を100 mAsから600 mAsまで100 mAs毎に変化させ撮影を行い,Filtered back projection法を用いてスライス厚5.00 mmに再構成を行った.得られた画像をImageJで解析し,標準偏差(SD),信号雑音比(SNR),コントラストノイズ比(CNR),性能指数(FOM)を算出し,CTDIvolに対してプロットした.また,眼球表面にRD-1000 (トーレック社) を貼付して同条件下にて頭部CT撮影を行い,水晶体線量を測定してプロットした.プロットしたものに対しそれぞれピアソンの積率相関係数を算出した.
【結果】SDとFOMはCTDIvolと負の相関があり,SNRとCNRには正の相関があった.水晶体線量はCTDIvolの上昇に伴い増加し,その近似直線の傾きは0.89であった.同様に水晶体線量/CTDIvolは,CTDIvolの値に関わらず約1.0で一定であった.
【結論】本研究により,CTDIvolの増加に伴いSDとFOMは低下し,SNRとCNRは増加することが分かった.また,CTDIvolの値に0.89をかけることで,撮影時の水晶体線量を推定できることが判明した.
09: ポリ乳酸を用いた低コントラスト分解能ファントムの試作
学生 棟方 勇成1, 奥田 光一2, 渡辺 集2, 森 竜太朗2, 佐々木 航洋1, 工藤 幸清2
1) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学大学院 保健学研究科放射線技術科学領域
【目的】頭部CT用低コントラスト分解能ファントムは僅かなコントラストの差を再現する必要がある.これまで検討されてきた造影剤を希釈したファントムは,再現は出来るが経時的変化に弱く再現性に乏しい.3Dプリンタを用いたファントムは素材が樹脂でありその変化に強く,内部の充填率を調整することでCT値を制御できる可能性がある.本研究では3Dプリンタを用いて充填率を変化させた低コントラスト分解能ファントムを成形し,撮影条件の変化とそのCT値との関係を回帰式により評価を行った.
【方法】ファントム作製は3Dプリンタ(Prusa i3 MK3.5S,Prusa Research,Czech Republic)を用いた.フィラメントの材料はポリ乳酸を用いた.内部の形状はgyroidとした.充填率は10%~90%まで10%ずつ増加させた.撮影前に数時間冷蔵庫で冷やし気泡を除去した.X線CT装置はCANON社製 Aquilion Startを用いた.撮影条件は管電圧120 kV,mAs値200 mA,回転速度1 sec/回,ピッチ0.688,スライス厚5.0 mmを基準に,管電圧を80 kV,100 kV,mAs値を50 mAs,100 mAs,150 mAs,ピッチを0.938,1.438,スライス厚を1 mm,3 mmと変え,ファントムを5回撮影した.得られた画像を解析ソフト(3D slicer)に読み込み,円形の関心領域(Region of interest: ROI)を設定しROIの平均値,標準偏差(Standard deviation: SD)のデータを収集した後,5回分の平均を算出し回帰式で評価した.
【結果】平均値は充填率の増加に伴い直線的な増加を示した.基準の撮影条件のとき,CT値[HU]=1.33×充填率[%]+9.26(R2=0.99)を示した.管電圧が100 kVでは,CT値=1.28×充填率+8.84(R2=0.99)と,管電圧の減少に伴い回帰式の傾きが減少した.他の撮影条件を変更した場合では,CT値への影響は認められなかった.
【結論】成形した低コントラスト分解能ファントムは管電圧の変化によりCT値に影響を及ぼすことが示唆された.
10: 櫛形ファントムを使用したCTの体軸方向の空間分解能の定量評価
学生 田村 駿介1, 奥田 光一2, 渡辺 集2, 森 竜太朗2, 細川 翔太2, 工藤 幸清2
1) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学大学院 保健学研究科
【目的】体軸方向の空間分解能を評価するための指標としてスライス感度プロファイル (Slice sensitivity profile :SSP)がある.SSPをフーリエ変換することにより変調伝達関数(Modulation transfer function :MTF)が得られ,体軸方向の空間分解能をMTFによって定量的に評価することが可能となる.本研究ではピッチファクタがSSPに与える影響に着目し,その影響を櫛形ファントムで測定することを目的とする.
【方法】体軸方向の空間分解能を調べるために,3Dプリンターを使用し樹脂製(ポリ乳酸)の櫛形ファントムを成形した.櫛の歯数を31,間隔を3 mm,高さを45 mmとした.櫛の形状は根本から歯先に向かい三角形状となるように設計した.CT撮像条件は,管電圧120 kV,管電流150 mA,ピッチファクタは0.69,1.44,収集スライス厚1.0 mmとした.再構成条件はスライス厚および間隔を1.0 mmとし,カーネルはFC26とした.冠状断面のMPR画像を加算することで櫛形ファントムのCT値のプロファイルを求めた.
【結果】MTFの基本周波数の振幅に対する高調波の振幅比率を測定した.ピッチファクタ0.69では,第二,三,四,五,六高調波の振幅比率は0.241,0,0.020,0.039,0であった.同様にしてピッチファクタ1.44の第二,三,四,五,六高調波の振幅比率は0.221,0,0.046,0.027,0であった.
【結論】本ファントムを用いた測定では,ピッチファクタの変化がSSPに与えている影響を特定することが出来なかった。三角波の基本周波数に対する第三および第六高調波成分が含まれなかったため,三角波のSSPが変調したものと考えられる.櫛の形状や間隔を調整することで正確なSSPを検出できる可能性がある.
11: 3Dプリンタで自作したCT用低コントラスト分解能ファントムの評価:グリコール変性ポリエチレンテレフタレートでの検証
学生 佐々木 航洋1, 奥田 光一2, 渡辺 集2, 森 竜太朗2, 細川 翔太2, 棟方 勇成1, 工藤 幸清2
1) 弘前大学 保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学大学院 保健学研究科放射線技術科学領域
【目的】 医療機器の性能評価には人体の代用としてファントムが広く用いられている.しかし,市販されているファントムは高価であるため入手困難である.3Dプリンタで作製したファントムは市販のものと比べて安価である.また,ファントム内の材料(フィラメント)充填率を変化させることで,CT値を調整できる可能性がある.本研究では,3Dプリンタでファントムを作製し,フィラメントの充填率とCT値の関係を評価することを目的とする.
【方法】3Dプリンタ(Prusa i3 MK3.5S ,Prusa Research,Czech Republic)を用いてファントムを作製した.フィラメント素材にはグリコール変性ポリエチレンテレフタレートを用いた.充填率は10%から10%ずつ増加させ,最大90%とし,Gyroidパターンで充填した.ファントム内部の気泡を取り除くため,水に少量の洗剤を添加した.X線CT装置にはCANON社製 Aquilion Startを用いた.基準撮影条件を管電圧120 kV,管電流時間積200 mAs,回転速度1 sec/回,ピッチ係数0.688,スライス厚5 mmとし,それぞれの条件で5回ずつ撮影をした.得られた画像に円形の関心領域(region of interest: ROI)を設定し,ROI内の平均CT値と標準偏差(standard deviation: SD)を算出した.
【結果】管電圧の上昇にともない,充填率に対するCT値の傾きが大きくなった(80 kV: CT値[HU]=1.27×充填率[%] +7.53,R2=0.993,100 kV: CT値=1.40×充填率 +6.65,R2=0.995,120 kV: CT値=1.47×充填率 +5.79,R2=0.995).管電流時間積,ピッチ係数,スライス厚の条件変更にともなうCT値の傾斜はいずれの条件においても一定の値を保っていた.今回の計測では充填率の変化に対してSDは安定した値を示した。
【結論】自作ファントムにてフィラメント充填率とCT値の関係を明らかにすることができた.充填率の増加にともないCT値は上昇した.CT値に関与する主な撮影条件は管電圧であった.
10月11日(土) 10:00~11:00 第2会場
【セッション3】 MRI AI・深層学習・脳 座長:高橋 大輔 (岩手県立中部病院)
12: 脳定位放射線治療用MRI画像における逐次近似再構成の評価
林 伸也1, 井川 陽太1, 庭山 洋1
1) 一般財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院 放射線部
【背景】脳定位放射線治療計画は正確なROI作成のため、MRI画像とCT画像を用いコンツーリングを行う。撮像したMRI画像をさらに向上させ、コンツーリングの支援になればと考えた。
【目的】脳定位放射線治療用MRI画像を使用し、逐次近似法再構成を行い画質評価する。
【方法】脳定位放射線治療用MRI画像T1WI , slice厚1 mm , FOV 260 mm , マトリックス512*512 , AART(Additive Algebraic Reconstruction Technique)加算型代数的逐次近似法 iteration 1~2000 , lambda_factor=0.01で計算。評価は脳腫瘍が描出しているslice にてSNR、CNR測定。
【結果】Iteration 1000 でSNRは元画像よりも24dB向上し、CNRは元画像よりも1.3倍になった。
【考察】MRI画像の周波数成分(正弦波、余弦波)に変換が可能であったため、逐次近似法も可能であるかと考えた。AART 画像再構成は、画像を拡大すると画質向上を確認、SNR,CNRも向上した。計画装置でコンツーリングをする際、画像を拡大しながら観察するため、このわずかな差が臨床現場で支援になっていくことを期待したいと考える。
13: 画像生成モデルを用いたT1強調画像における脳卒中病変の異常検知
学生 佐藤 大輝1, 奥田 光一1, 細川 翔太1, 森 竜太朗1, 薦田 大成1, 渡辺 集1, 新垣 康平1, 佐々木 洸輔1
1) 弘前大学 保健学科放射線技術科学専攻
【目的】脳卒中の早期診断において医用画像診断は不可欠であるが,その読影は専門医への負担が大きい.本研究は画像診断支援を目的とするAIモデルの構築を最終的な目標とする.本初期検討ではT1強調画像を対象に,variational auto-encoder(VAE)とgenerative adversarial network(GAN)を組み合わせたVAE-GANを構築し,健常脳のデータ分布を学習させることで脳卒中病変を検出するモデルの有効性を検証した.
【方法】AIモデルの学習にはalzheimer’s disease neuroimaging initiative(ADNI)の1639枚(認知機能正常)を用いた.性能評価用の画像には,AIモデルの学習に使用していないADNIの150枚とanatomical tracings of lesions after stroke R2.0の脳卒中画像150枚を使用し,画像サイズは128×128ピクセルに統一した.モデルの異常検知能力は,性能評価用の画像とモデルが生成した画像との間のmean squared error(MSE)を算出し,ROC曲線に基づいてarea under the curve(AUC)で評価した.
【結果】本モデルによる生成画像における平均MSEは,正常画像で0.016±0.004に対し,脳卒中画像では0.030±0.010と有意に高い値を示した(p < 0.0001).また,このMSEに基づいて算出したAUCは 0.965を達成した.
【結語】VAE-GANは脳卒中病変部を正常パターンに近づけ,擬似的な正常画像を生成することで高精度な異常検知を達成した.今後はVAE特有の画像平滑化という課題に対し, U-Netなど別アーキテクチャの導入による性能向上を目指す.
14: AI Deep Learningソフトウェアを用いたMRI画像の基礎的検討
田邊 ともみ1, 横山 陽子1, 前田 紀子1, 佐藤 兼也1
1) 青森県立中央病院 放射線部
【背景】近年,MRI検査においてDeep Learning(以下DL)技術の活用が進み,画像解析の精度向上に貢献している.しかし,多様な撮像シーケンスに対し適用範囲の限定や,異なるハードウェアによる汎用性の問題など複数の課題がある.このため,装置メーカーに依存しない画質向上技術の発展が期待されている.
【目的】本研究では,k-Spaceデータを用いずにDLを適用する「画像空間学習(image-space learning,以下ISL)法」ソフトウェアを用いて,当院の1.5T MRI装置においてDLを使用できない撮像シーケンスに対するISL法の効果を基礎的に評価することを目的とした.
【方法】Signa Artist 1.5T(DV30.1)においてDLが適用できない3D-TOF法(3D-SPGR)を対象とし,93-402 S型ファントム および通常撮像された臨床MRA像を用いた.評価項目はSubtraction,SNR,Profile Curve,Edge Profile・MTF に加え,視覚評価を行った.解析ツールにはFijiおよびImageJを用いた.
【結果】Subtractionではノイズ成分の多い領域でISL法によるノイズ低減が顕著であったが,一部で不自然な信号増強が確認された.SNRでは各領域で上昇がみられ,Pin Profileでは高分解能部分領域の変化が少なく,MTFは低周波から高周波への移行域で高値を示した.臨床画像の視覚評価では狭窄領域の血管連続性が向上し,DICOM情報から高分解能化によるPixel BW編集が確認された.
【考察】ISL法により,装置メーカーに依存しないDLによる画質向上と撮像時間短縮への効果が期待できる.一方で,高分解能化に伴うPixel BW編集や局所的な信号増強などの画像改変も生じ,臨床適用についてはさらなる検討が必要である.
15: 頭蓋内微細動脈評価におけるDeep Learning Reconstruction併用VRFA-3D高速SE法の撮像条件の検討
横山 陽子1, 工藤 嘉彦1, 前田 紀子1, 山内 良一1, 佐藤 兼也1
1) 青森県立中央病院 放射線部
【目的】MRIによる血管壁イメージングにはVRFA-3D高速SE法が用いられる.穿通枝などの微細動脈の血管径は100~300μmといわれており,その評価には高磁場かつ高解像度であることが求められる.近年,Deep Learning Reconstruction(以下DLR)を使用することで高解像度な画像が取得できるようになり,当院でもVRFA-3D高速SE法にDLRを使用することが可能となったことから,頭蓋内微細動脈を評価するためのDLR併用VRFA-3D高速SE法の撮像条件を検討することを目的とした.
【方法】使用機器はGE社製Signa Premier 3.0T DV30.1,Head 48ch AIRコイル,ファントムは93-402 S型,試料は精製水を使用する.撮像条件はTE15msec,FOV18cm,バンド幅62.5kHz,PixelSize0.5×0.5×0.5,加算回数1,ARC Factor2.0を固定値とし,DLR強度はHigh,脂肪抑制はCHESSとする.TRを400msecから1400msecまで変化させたとき,およびETLを20から60まで変化させたときのSNRとCNRを算出する.CNRは93-402 S型ファントムと精製水を用いて算出する.また,ファントムのスリット最小径である0.5mmのプロファイルカーブを作成して比較する.
【結果】SNRについては,TRが長くなるにつれてSNRは向上した.また,ETLが大きくなるにつれてSNRが低下した.CNRについては,TR1000まではCNRが向上しているが,それより長いTRでは横ばいとなった.その傾向はいずれのETLでも同様であった.スリットのプロファイルカーブについては,TRが長くなるにつれてFWHMが小さくなる傾向となった.また,ETLが大きくなるにつれてFWHMが大きくなる傾向となった.
16: 2D GRE T2*WIと比較した3D Multi-shot Gradient-Echo EPI法による磁化率変化の検出に関する基礎検討
台丸谷 卓眞1, 大湯 和彦1, 野崎 敦2, 森 竜太朗3, 船戸 陽平1, 佐々木 稜1, 成田 知将1
1) 弘前大学医学部附属病院 医療技術部 放射線部門
2) GE HealthCare
3) 弘前大学大学院 保健学研究科放射線技術科学領域
【目的】2D GRE T2*WIは,アミロイド関連画像異常のモニタリングのために不可欠であることが明言されている.一方,近年では3D EPIシーケンスを用いた高速撮像が報告されている.本検討では,2D GRE T2*WIと比較した3D Multi-shot Gradient-Echo EPI法(以下3D GRE-EPI)による,磁化率アーチファクトおよび微小な磁化率変化の検出に関して検討を行う.
【方法】MR装置はSigna Premier 3T(GE HealthCare),使用コイルは48ch Brain coilとした.撮像対象として,空のボトルの周囲をアガーで充填した自作ファントムを使用した.撮像シーケンスは3D GRE-EPI,2D GRE T2*WIとし,FOV = 240mm,Matrix = 360×360, slice thickness = 4mmを共通の撮像条件とした.3D GRE-EPIにおいて,shot数のみを6,12,18,20,30と変化させた条件,およびフリップ角のみを10,12,14,16,18,20と変化させた条件で撮像を行った.撮像時間について,3D GRE-EPIはshot数6から順に13sec,22sec,30sec,33sec,48sec,2D GRE T2*WIは235secであった.位相エンコード方向およびスライス方向のプロファイルを作成し,アーチファクトを評価した.また,アガーの低信号域を空気による磁化率変化部と定義し.磁気共鳴専門技術者による視覚評価によって個数を計測した.
【結果】3D GRE-EPIは,2D GRE T2*WIと比較して位相エンコード方向およびスライス方向においてアーチファクトが大きくなった.shot数30または,フリップ角16以下に設定すると磁化率変化部の個数が同等となった.
17: Fast Advanced Spin Echo法と深層学習再構成を併用した頸部MRI撮像条件の最適化
吉田 博一1, 池田 昌子1, 伊藤 優樹1, 照井 正信1
1) 秋田大学医学部附属病院 中央放射線部
【目的】頸部MRI撮像時に呼吸や嚥下による口腔内の体動が散見される.その解決策の1つとしてFast Advanced Spin Echo(FASE)法の使用が挙げられるが,通常の撮像条件ではFSE法と同等のコントラストを得ることは困難である.本研究ではデノイズ再構成と超解像技術を兼ね備えた深層学習再構成法であるPrecise IQ Engine(PIQE)を併用し,FASE法を用いた頸部MRI撮像条件の最適化を検討したので報告する.
【方法】①FASE法においてFOV18cmに設定し09-101 Pro-MRIファントムのホールマトリックス部1.1mmを視認可能な最小shot数,Parallel imaging(PI)factor,最小Phase Matrixの組み合わせを求めた.②同意の得られたボランティア8名に対し①で求めた条件を基にしたFASE法の撮像と,当院で通常撮像しているFSE法による撮像を行い,頸部MR画像のContrast Ratio(CR)を比較した.FASE法ではTR3000・3500msecの2種類,TE80・90msecの2種類に設定し,計4条件の撮像を行った.CRは骨・筋肉・耳下腺・脳脊髄液を対象とし,6種類のCRをFASE法とFSE法の画像で求め,反復測定分散分析による有意差検定を行った.また,一部のボランティア画像から差分マップ法によるSNR測定を行った.
【結果】1.1mmホールが視認可能な最小shot数は2,PI factorは3,最小Phase Matrixは160であった.CRの比較ではTR3500msec,TE80msecの骨/筋肉でのみ有意差が認められ,それ以外の条件では有意差は認められなかった.PIQEを併用しないFASE法の画像はFSE法の画像に比べ60%程のSNRであったがPIQEを併用することでFSEと同等以上のSNRとなった.
10月11日(土) 11:00~11:50 第2会場
【セッション4】 MRI 機能評価・臨床応用 座長:齋藤 宏明 (新潟大学医歯学総合病院)
18: 重水を用いたMRによる組織灌流評価法の開発
学生 和久津 暖1, 青山 颯走1, 平野 麗1, 久保 均1
1) 福島県立医科大学 保健科学部診療放射線科学科
【目的】前臨床において組織切片を作成するために行う灌流固定は重要な手技であるが,その組織における灌流状態を評価することは困難である.プロトンMRでは重水からの信号が得られないため,重水を含む灌流液での灌流前後におけるMR画像の信号強度の変化から組織灌流評価法を開発できるのではないかと考えた.そこで,本研究では組織灌流評価法の開発を目的とした.
【方法】小動物用MR装置としてMRvivoLVA(1.5T),3DプリンタとしてML-200を用いた.3Dプリンタにてマウス固定用のサンプルホルダを作成した.5~6週齢のICRマウス4匹を対象とした.灌流は日本細胞生物学会が示すマウスの灌流固定法に準じて実施し,灌流水として50%濃度の重水を用いた.撮像はGRE法で行い,撮像条件をTR:200msec,TE:6msec,FA:40deg,スライス厚:2mm,スライス枚数:10枚とした.灌流前後で肝臓のMRIを撮像し,灌流前後の信号変化を肝右葉と肝左葉にROIを設定し測定した.重水で調整した水濃度30~90%のファントムを肝臓と同時に撮像し,水濃度と信号強度の検量線を作成した.ROIで得られた信号強度変化より肝組織内に灌流した灌流液の濃度を評価した.
【結果】3Dプリンタで作成したサンプルホルダを用いて,灌流前後の画像を撮像する手法を構築できた.心拍停止後に灌流を行ったマウスと正常な心拍で灌流を行ったマウスを比較したところ,肝右葉と肝左葉で濃度に違いが見られた.心拍停止後では肝右葉よりも肝左葉の信号低下が大きかったのに対し,正常な心拍では肝左葉よりも肝右葉の信号低下が大きかった.灌流前後の画像から信号強度の変化による灌流評価を行うことができ,臓器移植における臓器保存液の灌流評価などに応用できる可能性が示唆された.
19: 前臨床研究における腹部臓器の機能評価に資する無麻酔イメージング法の開発
学生 青山 颯走1, 和久津 暖1, 平野 麗1, 久保 均1
1) 福島県立医科大学 保健科学部診療放射線科学科
【目的】前臨床イメージング研究は小動物を対象としたイメージングを行い,創薬や技術開発に貢献している.しかし,動物実験では人のように静止不可能なため通常は麻酔下でのイメージングとなる.しかし,麻酔は生体機能に大きく影響を与えることから,臨床と同じ条件で評価するためには無麻酔でのイメージングが必要となる.そこで,本研究では特に腹部臓器に着目し,マウスの麻酔下と無麻酔下での評価システムを開発した.
【方法】小動物用MR装置(MRVivoLVA)のコイルのサイズに合わせた固定具(本体)と,マウス固定用に片側が長方形で中央にくぼみがあるボルトとナット(アタッチメント)を設計し,3Dプリンタ(ML-200)で造形した.マウス(雄,ICR,7週齢)の背側脊椎直上の皮膚・筋肉を切開し,脊椎を剖出してボルトを歯科用接着剤で接着し皮膚を縫合した.接着確認後,麻酔下で固定具本体とマウスをナットで固定しコイル内に設置した.撮像は肝臓を対象としたダイナミック撮像とし,条件はFSE法でTR=400ms, TE=10ms, FOV=80mm, スライス厚=2mm, スライス枚数=6,128×256,撮像時間=15s,20phaseとした.撮像2phase目で造影剤(オムニスキャン0.04mL)を用手的に投与した.ImageJを用いて肝臓の右葉と左葉にROIを設定し,造影剤による信号変化を麻酔下と無麻酔下で評価した.
【結果・考察】無麻酔下の造影剤による信号上昇は急峻で,ピーク時の信号値も高い値を示した.一方で,麻酔下ではなだらかに上昇し,そのピーク時の信号値は無麻酔下よりも低かった.モーションアーチファクトは麻酔下よりも無麻酔下の方が大きかったが,双方の造影剤動態の違いや変化を評価することができた.これらのことから,腹部臓器においても無麻酔での評価を可能とするシステムの構築ができたと考えられた.
20: 多核種MR測定を用いた下腿筋の運動負荷による機能変化の検出
学生 鴫山 嵩志1, 熊谷 洸2, 久保 均1
1) 福島県立医科大学 保健科学部診療放射線科学科
2) 福島県立医科大学 保健科学研究科
【目的】加齢や運動に伴う筋機能変化を早期に捉えることは,リハビリや筋機能強化などに寄与すると考えられる.そこで,本研究では運動に伴う筋機能の動的変化を多核種MR測定で評価する手法の開発を行い,特に下腿筋における筋機能変化の評価に資するパラメーターの探索を行った.
【方法】使用機器はGEHC社製Premier 3.0Tで1H-31Pデュアルチューン表面コイルを用いた.運動経験のない研究参加者5名を対象とし,運動介入中に31P及び1HのMRS測定を行い,GEHC社の解析評価ソフトウェアであるsageを用いて代謝物変化を評価するとともに,運動前後に1H MRI撮像を行い,筋断面積の変化を評価した.運動負荷はトレーニングゴムチューブを用いて腓腹筋に負荷をかける方式とし,安静30秒+運動負荷5分+再安静2分とした.この期間中に継続的なMRS測定を行うため,運動負荷はMR装置内で実施した.測定部位を腓腹筋としてその直下に表面コイルを設置し,仰臥位でガントリ内に入り運動と安静を行った.
【結果・考察】31P-MRSの結果を解析したところ,研究参加者5名中3名で運動負荷によってPCrは減少し安静により回復した.また,Piは運動負荷にて上昇した後,最終的には元の状態に回復した結果を得ることができた.これは運動によってATP→ADP+Piの反応が生じるとともにPCr+ADP?ATP+Crの反応も同時に生じていることが関係していると考えられた.なお,残り2名に関しては同じ傾向を示さず,動きなどが信号強度に影響を与えた可能性が示唆された.1H-MRSの結果を解析したが,運動負荷に伴う変化において研究参加者5名の中で同じ傾向は見られなかった.運動前後の筋断面積の変化においても5名に同じ傾向は見られず,面積測定に技術的な問題があることが示唆された.
21: HASTE法を使用した脊椎短時間撮像法の検討
佐藤 尽1, 黒澤 慎哉1, 大橋 良徳1
1) 秋田労災病院 中央放射線部
【目的】2024年4月に3.0T-MRI装置へ更新し,Siemens社製Deep Learning(以下Deep Resolve)が使用可能となった.これは2DのTSE系,EPI系,HASTE系に使用可能である.従来,腰痛等で体動のある患者にはラジアルスキャンであるBLADEを用いていたが,撮像時間が長く,検査を途中で断念することもあった.現在,ヘルニアや圧迫骨折などの急性腰痛を診断するのに必要なTSE系のT2 sag,T2 ax,T2-STIR sagの3シーケンスの撮像時間は約7分であり,これらをHASTE法を用いて3分以内に短縮し,かつ診断に適した画像が得られるかを検証した.
【方法】使用装置はSiemens社MAGNETOM Lumina 3T.HASTE法の最大の問題点であるボケを抑える必要があるが,当院の装置はETLを調整することができなかったため,位相方向FOV,位相方向マトリクス数,パラレルイメージング(以下GRAPPA)の倍率,オーバーサンプリング,受信バンド幅の5項目を調整し,ファントム撮像を行い,視覚および物理評価を行った.脊椎と脳脊髄液のコントラスト比(以下CR)を求め,TSE系のT2 sag,T2-STIR sagと比較した.
【結果】パラメータ調整により診断可能な画像が得られた.位相方向FOVは50%,マトリクス数は768,GRAPPAの倍率は3倍,オーバーサンプリングは30%,受信バンド幅は638Hz/pxであった.CRはT2 sag のHASTE法が0.28,TSE法が0.33.T2-STIR sagのHASTE法は0.78,TSE法は0.75だった.
【結論】HASTE法を使用した腰椎MRI検査では,TSE系と比較し若干の画質変化はあるものの,診断可能な画像を約3分で撮像可能となった.今後,他の脊椎にも対しても検討したい.
22: 治療計画用MRIにおけるカーボン製ベースプレートがB1に与える影響についての検討
髙橋 悠馬1, 石川 寛延1, 渡部 直樹1, 清野 真也1, 遊佐 雅徳1
1) 福島県立医科大学附属病院 放射線部
【目的】近年,放射線治療計画において,DIXON画像から作成されたCT画像を用い,治療計画を行う新しい方法が報告されている.当院では,治療計画MRI検査の際に,治療時に用いるカーボン製ベースプレートをMRI寝台の上に設置して撮像している.我々は,治療計画MRI画像の同一領域に信号低下領域があることを経験している.我々は,この信号低下領域の原因は,カーボン製ベースプレートによるB1不均一の可能性があると仮説を立てた.したがって,本研究は,カーボン製ベースプレートがB1に影響するかどうか調べることを目的とした.
【方法】使用装置はSiemens社製3.0TMRI装置Magnetom Vida RT pro Edition,コイルは内蔵Body Coilを使用した.撮像対象は装置付属の直径25cmのSolution L Phantom( MARCOL-Oil:0,01g MACROLEX blue).カーボン製ベースプレートを設置しない場合”Carbon(-)”と設置した場合”Carbon( )”でそれぞれ撮像を行い,Double Angle Method(DAM法)でB1 mapを取得した.撮像シーケンスはspin echo法を使用した.撮像条件はTR= 1000 msec,TE = 8.7 msec,FA = 50°と100°,スライス厚 = 10 mm (ギャップなし)とした.全脳の範囲を想定して25スライス撮像した.また,測定回数は5回とした.画像解析には,MATLABとimage Jを使用した.統計解析にはRを使用した.各スライスにおけるB1 mapのヒストグラム解析を行い,歪度・尖度を算出した.また,全スライスにおける歪度と尖度の平均値と標準偏差を算出した.
【結果】Carbon(-)とCarbon( )における歪度は,それぞれ2.77 ± 2.92,0.75 ± 0.39 だった(P < 0.05).同様に,Carbon(-)とCcarbon( )における尖度は,それぞれ26.12 ± 12.71,5.10 ± 1.93だった(P < 0.05).
10月11日(土) 15:00~15:50 第2会場
【セッション5】 CT 再構成・画像処理 座長:齋藤 将輝 (福島県立医科大学附属病院)
23: 自動MPR作成アプリケーションにおける再現性の精度検証~頭部Axial画像について~
工藤 和也1, 東海林 綾1, 佐藤 真孝1, 鎌田 伸也1
1) 市立秋田総合病院 放射線科
【背景】当院では頭部CT検査時ヘリカル方式でデータ収集した後,MPR処理によりAC-PC lineに合わせた頭部Axial画像を作成している.しかし,当院では技師不足によりCT専任の画像処理担当者を配置できず,CT撮影担当者の負担が増大している.また,技師の経験や知識の差によるMPR画像のばらつきや作業遅延が課題であった.そこで当院では,シーメンスヘルスケア製Syngo.viaによる自動MPR処理を導入し,業務の効率化と均質な画像提供を目指した.
【目的】Syngo.viaの自動MPR処理による頭部CT画像の自動角度調整の正確性および再現性を評価すること.
【対象】2024年1月から2025年2月までに頭部CT検査を2回施行した患者5名とした.
【方法】方法1.同一Thin sliceデータを用いた再現性の評価では,1.検査日AのThin sliceデータ(1mm厚,0.7mm間隔)からSyngo.viaを用いてスライス厚5mmの頭部Axial画像を自動作成,2.SYNAPSE VincentによりAC-PCレベルのAxial画像の面積(mm?)を測定.3.1.と同じThin sliceデータを再度用いてMPR画像を作成.4.再びAC-PCレベルのAxial画像の面積を測定し,級内相関係数ICCを算出した.方法2.同一患者の異なる撮影日における再現性の評価では,検査日AおよびBのThin sliceデータからMPR画像を作成し,それぞれのAxial画像の面積を測定したのち,ICCを算出した.
【結果】結果1.同一Thin sliceデータの再現性では,全患者の面積が完全に一致し,ICCは1.0であった.結果2.異なる撮影日の再現性では,ICCは0.9876と非常に高い再現性であった.
【結論】同一Thin sliceデータを用いた場合,Syngo.viaによるMPR画像の再現性は完全であった.また,異なる撮影日においても高い再現性が示され,臨床応用において信頼性の高い自動MPR処理が可能であることが示唆された.
24: 頸椎手術用ナビゲーションシステムに用いるCT画像の再構成関数の検討
石田 汰一1, 原田 正1, 工藤 敬幸1, 内田 幸範1, 滝代 航也1, 太田 依譲1, 石川 翔大1, 加藤 勇輝1, 赤坂 倫太郎1, 三上 葉月1, 小澤 友昭1
1) 青森市民病院 放射線部
【目的】当院での脊椎(頸椎)手術用ナビゲーションシステムを用いた脊椎手術に用いられる画像データは,診断用に撮影されたCTデータを用いて行われている.このナビゲーションシステムは画像の3D加工が不可でありノイズ対策が重要である.今回,このナビゲーションシステムが更新され,ナビゲーションシステムで用いるCT画像の最適な再構成関数を決定することを目的とした.
【方法】使用装置はCT装置:SOMATOM Definition edge(Siemens Healthcare社製),脊椎手術用ナビゲーションシステム:BRAINLAB KICK2(ブレインラボ株式会社社製),当院の臨床で使用する頸椎撮影条件でCT用ERF取得ファントムHIT型(京都科学社製)及び水ファントム20cmを撮影し,再構成関数を腹部用(Bf42,Br43,Br49,Bv49),骨・肺野用(Bl57,Bv58,Br59),逐次近似再構成法(ADMIRE1~5)の有無にてCT measureを用いてTTF,NPS,System performance を評価した.また,実際の臨床画像の比較検討も行った.
【結果】逐次近似再構成強度が上がるほどTTFとSystem performance は向上し,NPSは低下した.TTFにおいてはBv58(ADMIRE5),Br59(ADMIRE5)がほぼ同等で高値を示した.NPSにおいてはBf42(ADMIRE5),Br43(ADMIRE5)がほぼ同等で低値を示した.System performance においてはBf42(ADMIRE5),Br43(ADMIRE5),Bv49(ADMIRE5)がほぼ同等で高値を示した.臨床画像の視覚評価ではBv49(ADMIRE5)において視認性が良い結果となった.
【考察】今回は標準体型の頸椎を想定した検討であったが,体格の違いや,腰椎等の他部位などいろいろな場面が想定される.その都度,関数,逐次近似強度をナビゲーションシステム上で確認することが必要である.
25: Adamkiewicz動脈CTAにおける画像再構成法の違いが描出能に与える影響
上山 悠太1, 千葉 工弥1, 佐々木 忠司1, 折居 誠2, 吉岡 邦浩2
1) 岩手医科大学附属病院 中央放射線部
2) 岩手医科大学 放射線医学講座
【目的】Adamkiewicz動脈は血管径が1mm程度と細く,CTAで同定する際には良好な造影効果が求められる.近年CTでは逐次近似再構成やディープラーニング再構成を用いて,コントラスト分解能に優れた画像を取得することが可能であり,Adamkiewicz動脈CTAにおいても描出能の向上が期待される.今回はAdamkiewicz動脈CTAにおける画像再構成法の違いが描出能に与える影響について検討した.
【方法】CT装置はAquilion ONE / INSIGHT Edition(キャノンメディカルシステムズ)を使用した.対象は2024年8月から2025年5月までに当院のAdamkiewicz動脈CTAプロトコルで撮影した25症例とした.画像再構成法は逐次近似応用再構成(AIDR3D BODY),逐次近似再構成(FIRST BODY,BODY Sharp),ディープラーニング再構成(PIQE BODY 512matrix,1024matrix)を使用した.Adamkiewicz動脈を分岐する肋間,腰動脈起始部付近の大動脈のCT値と画像SDを計測し,SNRを算出した.次にAdamkiewicz動脈付近の脊髄のCT値と画像SD,前脊髄動脈のCT値を計測し,CNRを算出した.得られた計測値およびSNR,CNRについて各画像再構成法で比較した.
【結果】大動脈と脊髄のCT値はすべての画像再構成法で同等であったが,画像SDはPIQE BODYが最も低値を示した.前脊髄動脈のCT値はFIRST BODY Sharpが最も高値を示した.SNR,CNRはともにPIQE BODYで最も高値であった.
【結語】ディープラーニング再構成であるPIQE BODYがSNR,CNRともに最も高値を示し,Adamkiewicz動脈の描出能向上に寄与する可能性が示された.
26: 頭部X線CT検査における位置決め撮影で得られた横断像の有用性
髙橋 基1, 松田 竜旺1, 小向 千幸1, 鈴木 康則1
1) 公立置賜総合病院 放射線部
【背景】Aquilion ONE INSIGHT Edition(Canon Medical Systems社)では,ヘリカルスキャンによる位置決め画像の取得(以下,3D Landmark Scan)が可能である.この3D Landmark Scanによって,大まかなアライメントの把握や脳出血のコントラスト描出が可能となる.しかし,以前我々が行った検証では,通常撮影と3D Landmark Scanの横断像における脳出血の判別に有意差は認められなかったものの,3D Landmark Scanでは出血を判断する精度が低下する傾向が見られた.【目的】本研究では,頭部X線CT検査において3D Landmark Scanを用いて得られた横断像が脳出血の描出に与える影響について検証した.
【方法】2024年5月から2025年3月までに脳出血ありと診断された患者35名の3D Landmark Scan画像を対象に視覚評価を行った.画像のウインドウ幅・ウインドウレベルおよび画像の拡大率は固定し,観察時間と回数については実際の臨床と同様の環境を再現するため,横断像を2往復もしくは10秒以内で評価した.評価は診療放射線技師5名で行い,評定方法に関しては連続確信度法を採用してROC解析を実施した.さらに,脳出血の描出がより明瞭な断面を用いて,出血範囲,CNR,CT値を測定し,これらの数値と視覚評価結果の相関関係を検討した.また,3D Landmark ScanのROC解析において,診療放射線技師の経験年数別に有意差検定を行った.
【結果】ROC解析の結果,診療放射線技師の経験年数による有意差が認められた.また,出血範囲・CNR・CT値と視覚評価結果の間に強い相関は確認されなかった.
27: 死後CT画像による腎臓体積測定の精度検証
学生 渡邉 悠真1, 田代 雅実1, 山品 博子1, 小俣 純一2
1) 福島県立医科大学 保健科学部 診療放射線科学科
2) 福島県立医科大学 保健科学部 理学療法学科
【目的】CTによる臓器体積測定は病変評価や手術計画に有用である.しかし複数の測定手法の精度比較報告は限られている.本研究では腎臓を対象に,水置換法を基準とし,CTデータを用いた手動抽出,自動抽出,推算法の3手法を比較検討することを目的とした.
【方法】2024年に解剖学実習で使用された13献体26腎を対象とし,解剖後に水置換法(比重計)で実測体積を取得した.死後CT撮影条件は管電圧135kV,スライス厚1㎜,スライス間隔0.8㎜,関数はFc03とした.CT画像をワークステーション(ziostation2)で解析し,手動抽出は2名がスライスを2枚おきに輪郭トレースし平均値を用いた.自動抽出はワークステーションの腎臓抽出アルゴリズムを適用した.推算法は腎臓の長軸,短軸,高さを測定し,楕円体公式(長軸×短軸×高さ×π/6)で算出した.各手法の体積値と水置換法体積との差をBland-Altman解析で評価し,平均差(bias),差の標準偏差,95 %一致限界(LoA)を算出した.
【結果】解析対象腎数は手動23例,自動19例,推算23例であった.手動抽出の平均差は?3.8 mL(95%LoA: ?44.6~ 37.8 mL),自動抽出は 1.3 mL(95%LoA: ?47.2~ 49.8 mL),推算法は 1.5 mL(95%LoA: ?53.5~ 56.5 mL)であった.自動抽出・推算法はいずれも基準より高く,手動抽出は基準より低く算出された.
【考察】手動抽出および自動抽出はいずれも水置換法と高い一致性を示し,特に手動抽出のLoA幅が最も狭かった.これは手動で輪郭を確認しながらトレースできるため,形状の複雑さに対応しやすいことが要因と考えられる.自動抽出は短時間で再現性が高い一方,アルゴリズムの学習データや画質による誤差が生じやすい.推算法は簡便で臨床現場ですぐに利用可能であるが,腎臓を楕円体と仮定するため形状を反映しきれず,誤差が大きくなる傾向があった.なお,本解析では撮影から解剖までの時間や固定処理の影響を考慮していないため,今後は経時的な体積変化や固定液による膨張・収縮の検討が必要である.
10月11日(土) 11:00~11:50 第3会場
【セッション6】 放射線治療 座長:竹山 修嗣 (八戸市立市民病院)
28: 転移性脳腫瘍に対するロボットアーム型治療装置を用いた定位放射線治療における腫瘍の幾何学的因子に基づくコリメータ選択基準の検討
滝澤 健司1,2, 宇都宮 悟2, 棚邊 哲史3, 丸山 克也1, 海津 元樹4, 石川 浩志4
1) 新潟脳外科病院 放射線治療科
2) 新潟大学大学院 保健学研究科 放射線技術科学分野
3) 新潟大学医歯学総合病院 放射線治療科
4) 新潟大学大学院 医歯学総合研究科 放射線医学分野
【目的】ロボットアーム型治療装置であるサイバーナイフ(CK)には,円形コリメータ(CC)とマルチリーフコリメータ(MLC)が搭載されており,治療計画時には適切なコリメータ選択が求められる.本研究では,転移性脳腫瘍(BM)に対する定位放射線治療計画において,腫瘍の幾何学的因子に基づくコリメータ選択基準を検討した.
【方法】単発性BM患者48例を対象に,CCおよびMLCを用いた2種類の治療計画を作成した.各計画に対し,腫瘍カバレッジや正常脳への線量指標等を基に,治療計画全体のスコア(PS)を0?6点で評価した.CCおよびMLC計画間のPS差(ΔPS)を算出し,計画の優劣を比較した(ΔPS > 0:MLC優位,ΔPS < 0:CC優位).また,腫瘍の等価半径(rGTV)と球形度(SI)を幾何学的因子として算出し,rGTVおよびSIを説明変数,ΔPSを目的変数とした重回帰モデルを構築した.回帰直線の95%信頼区間がΔPS=0と交差する幾何学的因子の値を,CCまたはMLCが優位となる閾値と定義した.
【結果】CCおよびMLC計画のPS中央値はともに3.7で,有意差はなかった(p = 0.43).重回帰モデルの重相関係数は0.65であり,統計的に有意なモデルであった(p < 0.01).rGTVはΔPSと有意な正の相関を示し(β = 0.71,p < 0.01),rGTVが大きいほどMLC計画が優れる傾向がみられた.一方,SIとの相関は認められなかった(β = 0.17,p = 0.20).回帰モデルより,SIを中央値に固定した場合,CCとMLCが優位となるrGTVの閾値はそれぞれ7.6 mm以下,10.7 mm以上であった.
【結論】重回帰分析により,CCとMLCの優劣に関わる腫瘍の幾何学的因子を特定した.特にrGTVは選択基準として有用であり,その閾値推定が可能であった.
29: X線におけるボーラス材の水分量や空隙が表面線量に与える影響
宮岡 裕一1, 星 佑樹1, 岡 善隆1, 長澤 陽介1
1) 福島県立医科大学附属病院 放射線部
【背景】外陰癌の治療では皮膚表面への線量投与が必要であり,ボーラス材として濡れガーゼを用いる場合がある.しかし,濡れガーゼは水分量のばらつき,患者の不快感,衛生面等での課題がある.既製のボーラス(Bolus)は水分量が一定で取り扱いが容易だが,患部への密着性に難がある.本研究では,ボーラス材の水分量や空隙が表面線量に与える影響を検討した.
【方法】治療装置はCLINAC 21EX,ファントムはタフウォーターファントムを用いた.濡れガーゼは2つ折りガーゼ20枚を重ね,水分量50~350 cc(50 cc刻み,7種)で作成した.Bolusは厚さ5 /10 mmを使用.水分量の検討として,10 cm厚のファントム上にRoos型線量計を設置し,ガーゼまたはBolusを載せて線量を測定.エネルギーは6/10MVを使用し,照射野は10×10 cm,SSDは100 cm,MUは100MU,3回平均.空隙の検討では,Bolusを用い,空隙を0 ~2 cm(5mm刻み,5種)で設定.さらに技師7名による濡れガーゼ作成で,水分量のばらつきを評価した.
【結果】水分量の検討では水分量350 ccの濡れガーゼを基準とし,6 MVで最大12%,10 MVで最大22%線量低下を認めた.Bolus10 ㎜は水分量350 cc,Bolus5 ㎜は200 ccと同等であった.空隙の検討では,空隙無しを基準に,6MVで最大1.4%,10MVで最大1.6%の線量低下を確認した.技師間の水分量のばらつきは194~349 ccだった.
【考察】不整形部位で表面線量を確保するには,空隙よりも水分量の再現性が重要であり,Bolusの使用がより有用と考える.
30: プラスチックシンチレーション検出器におけるチェレンコフ光補正法についての基礎検討
星 佑樹1, 宮岡 裕一1, 岡 善隆1, 長澤 陽介1
1) 福島県立医科大学附属病院 放射線部
【目的】TRS-483ではプラスチックシンチレーション検出器(PSD)は検出器サイズによる体積平均効果や材質による擾乱の影響を受けにくいとされるが,光ファイバーに放射線が入射すると発生するチェレンコフ光の影響を受けてしまう.複数の補正法が提案されているが,それらが測定値に与える影響の比較報告は少ない.本検討ではOPF測定時のチェレンコフ光補正法が測定値に与える影響について検討した.
【方法】放射線治療装置はTrue Beam STx,PSDはExradin W2(W2)を使用した.寝台の上に20 cm厚の水等価板ファントムを設置し,中心にW2を装填した.チェレンコフ光の補正法は,キャリブレーションスラブを用いるスラブ法と矩形照射野法(矩形法)とし,矩形法の照射野サイズは,2 × 16 cm,2 × 9 cm,2 × 3 cm,30 × 16 cm,30 × 9 cm,30 × 3 cmの6通りとした.各補正法でチェレンコフ光補正値(CLR)をメーカー推奨の方法で算出した.OPF測定は照射野サイズ1~20 cmの11通り,エネルギーは6 MV,100 MUの3回平均とした.スラブ法で測定したOPFを基準とし,矩形法の6通りのOPFの相違を算出した.
【結果】CLRはスラブ法では1.050,矩形法ではそれぞれ1.052,1.054,1.033,1.035,1.029,0.927となった.照射野1 cmのOPFは,矩形法の30 × 3 cmを除き,スラブ法との相違は1%未満であったが,30 × 3 cmの補正法では約4%の相違となった.
31: 人工ルビー線量計を利用したLINACのエネルギースペクトル測定の試み
学生 小川 貴央1, 岸田 颯介1, 但木 健汰1, 茅根 颯斗1, 岡 さくら1,鈴木 千聖1, 佐藤 天俊1, 高橋 馨1, 玉山 聖己1, 松本 健希1, 細貝 良行1
1) 国際医療福祉大学 放射線・情報科学科
【緒言】治療計画における計画線量の計算にはエネルギースペクトルの値を基礎データとして利用している.現在,エネルギースペクトル算出には電子リニアックの照射ヘッドをモデル化し,シミュレーションによる計算値を用いているが,実測値ではないため±2%程度の誤差が生じる可能性が報告されている.これを解決するために,先行研究では電子銃のグリッド電圧を調整することで,線質を変えずに線量率を極力低減させスペクトルの実測を実現している.しかしながら,電子銃のグリッド電圧を調整するリスクが指摘されており,臨床機に対してユーザーが実施することは困難である.パイルアップはシンチレータの結晶サイズに依存するため,結晶サイズが非常に小さい場合には,グリッド電圧の調整なしにスペクトルの測定ができる可能性がある.我々はこの点に着目し,直径1mmの人工ルビー線量計を使用しLINACのエネルギースペクトル測定を試みることとした.
【目的】人工ルビー線量計を使用しLINACのエネルギースペクトルを測定する.
【方法】周囲からの散乱線の入射を防ぐために検出器の周りを鉛で囲い,線源から検出器前面までの距離を100cmに設置した.また,直径0.5cmの穴が空いた鉛を検出器前面に設置し,リニアックの照射野を0.5cm×0.5cmに設定することでパルス当たりのフルエンスを調整し直接測定を可能とした.照射はX線と電子線で行い,MU値は一定とした.人工ルビー線量計からの出力を半導体型光電子増倍管(MPPC)に入力し,さらにMPPCからの出力を波高分析器(MCA-527)に入力することで,PC上でのスペクトルの確認を可能とした.
【結果】電子銃のグリッド電圧の調整を行わずに各照射条件のエネルギースペクトル測定が可能であることが確認でき,先行研究と同様の波形を得ることが可能であった.
【考察】自施設の装置に応じたエネルギースペクトルの実測値が簡便に得られることで,より適切なコミッショニングに繋がる可能性がある.MCA-527での各チャンネルに対するエネルギー校正曲線の作成が必要であり,今後の検討課題とする.
32: 腹膜播種を伴う進行横行結腸癌緩和照射における骨照合後の残余誤差解析とPTVマージンの検証
菅原 康紘1, 竹林 龍亮1
1) 由利組合総合病院 診療放射線科
【目的】体厚変化を伴う進行横行結腸癌による持続的消化管出血症例に対し, IGRT位置照合変位量の定量化およびVan Herk式を用いた理論的PTVマージンの算出により, 現行マージン設定の幾何学的妥当性を検証する. さらにCBCT画像を用いた残余誤差を検討する
【方法】85歳女性(Stage IV横行結腸癌, 腹膜播種, 多発肺転移, リンパ節転移)に対し, 10MV X線で3DCRT(30Gy/10Fr, CTV:GTV 0.5cm, PTV:CTV 1.0cm, MLCマージン0.5cm, ガントリ角度0°/90°/215°/270°)を施行した. 初回治療時にCBCTで腫瘍と骨構造の位置関係を確認し, 2回目以降はkV-2D/2Dマッチング(骨照合)と第4腰椎前面-皮膚面距離による体厚変化モニタリングを実施した. 体厚変化量が1cmを超えた場合にCBCTを追加した. IGRT位置照合変位量からVan Herk式(M=2.5Σ 0.7σ)に基づき理論的マージンを算出し, 現行PTVマージンとの比較検討を行った. CBCT画像を用いた残余誤差の検討も行った
【結果】IGRT位置照合変位量は, 各軸方向で平均0.1-0.3cm, 最大0.2-0.8cmであり, 3D変位量は平均0.4cm, 最大0.8cmであった. Van Herk式による理論的マージンは0.82cmとなり, 現行PTVマージン1.0cmは十分な安全余裕を有することが示された. 6回目治療時に体厚変化1.5cmを確認し, 追加CBCTにより骨照合補正後のターゲットがPTV内に包含されることを確認した. 臨床的には, Hb値は治療後も安定し(治療前6.7g/dL→治療後7.7-9.0g/dL), 追加輸血は不要であった. 放射線治療後CTで腫瘤の退縮を認めた.
10月11日(土) 15:00~15:50 第3会場
【セッション7】 血管撮影 座長:内田 幸範 (青森市民病院)
33: 心臓領域のカテーテル診断における検査種別に応じた被ばく線量管理の必要性に関する検討
三浦 才登1, 榎本 卓馬1, 坂本 龍哉1, 吉田 雅貴1, 大井 崇矢1, 川崎 出海1, 前田 茂寿1
1) 八戸市立市民病院 医療技術局 放射線科
【背景・目的】2020年度版診断参考レベル(DRLs2020)においては,心臓領域の診断カテーテル検査に対する標準的な線量指標は提示されているが,検査種別や検査数に応じた詳細な分類は示されていない.当院ではDRLs2020に基づく線量管理を実施しているが,複合的な検査を伴う症例に対する線量最適化は十分に検討されていない.本研究では,検査種別に基づく被ばく線量の違いを検討し,より精緻な線量管理の必要性を評価した.
【方法】カテーテル検査台帳システム(CardioAgentPro)より,2024年1月から2025年2月に当院で実施された心臓カテーテル診断症例を抽出した.使用機器は島津メディカルシステムズ社製BRANSIST Safire B8とした.冠動脈造影検査(CAG)のみを施行した128例を対照群,CAGに加え右心カテーテル検査,冠攣縮誘発試験,瞬時血流予備量比(iFR),冠血流予備量比(FFR),左室造影(LVG),心筋生検,定量的血流予備量比(QFR)を追加施行した101例を評価群と設定した.年齢,性別,身長,体重,BMI,透視時間,装置表示線量(Ka,r)を取得し,透視時間およびKa,rについてWelchのt検定により群間比較を行った.
【結果】対照群と評価群間において,年齢,性別,身長,体重,BMIに有意差は認められなかった.透視時間は対照群7.8±6.6分,評価群12.8±5.5分であり,評価群の方が約64%延長していた(p<0.05).また,Ka,rは対照群376.1±340.1mGyに対し,評価群では523.3±309.1mGyと,約39%高値を示した(p<0.05).
【結語】追加検査の併施は心臓カテーテル診断における被ばく線量の増加に寄与していることが示唆された.今後は検査種別の線量基準設定や,個々の症例に応じた被ばく線量管理体制の構築が求められる.
34: 半導体検出器を用いた線量測定システムにおける複数点同時測定の試み
学生 池田 莉理1,松本 健希1,中山 葵心1,池田 楓1,秋山 直士1,柏木 裕哉1,高庭 翔琉1,細貝 良行1
1) 国際医療福祉大学 保健医療学部 放射線・情報科学科
【背景・目的】当研究室では人工ルビー線量計を用いた研究を行っている.先行研究ではIVRに用いる理想的な線量計に対して三つの条件が提示されている.その三条件とは,透視の邪魔にならない,リアルタイムに測定可能,多数点同時測定が可能なことである.これまでの研究では線量測定システム内の光子計測部に光電子増倍管を採用していた.一方で,このシステムでは1本の人工ルビー線量計しか接続できず,多数点同時測定は未達成となっていた.本研究では光子計測部に半導体検出器を採用し,4チャンネルでの複数点同時測定について検討する.
【使用機器及び方法】本研究で使用した半導体検出器はMPPC(c13369, 浜松ホトニクス)を使用した.半導体検出器には直径2㎜の人工ルビー線量計を4本接続している.X線撮影装置はHITACHI社製撮影装置(DHF-153HR)である.また,X線透視装置はHITACHI社製透視装置(medix POPULUS)である.参照線量計として半導体式線量計(RaySafe X2,Unfors RaySafe社)を使用した.
【結果】人工ルビー線量測定システムに接続した4本の人工ルビー線量計における発光光子数の測定値は安定し,30回の測定で変動係数(%CV)は各線量計のチャンネルで±5%以内であった.また,各チャンネルにおける校正直線での相関係数(R?値)はいずれも0.99以上であった.このことから安定した線量計測が可能であった.またX線透視における照射条件をリアルタイムに変化させた際の検討項目において,測定された積算線量の値は参照線量計との値と比較して,最も優れた結果では+2%となった.
【結論】光子計測部にMPPCを導入した線量測定システムは,これまでのシステムと同等の精度であり,4点での複数点同時測定が可能であった.
35: 頭部血管撮影領域における2種類の水晶体線量計による3mm線量当量の精度比較
佐藤 智亮1, 福田 篤志2, 溝井 綾乃1, 菅野 友結2, 木村 江那2, 続橋 順市1
1) 公益財団法人星総合病院 放射線科
2) 福島県立医科大学 保健科学部 診療放射線学科
【背景】水晶体被曝線量評価には3 mm個人線量当量(Hp(3))が用いられ,その評価のために2種類の線量計が利用可能であるが,頭部血管撮影領域において利用されるX線の線質において,これらの線量計の推計精度は明らかになっていない.
【目的】電離箱線量計で計測したHp(3)を基準として,DOSIRIS(千代田テクノル)およびVison badge(長瀬ランダウア)の精度を比較した.
【方法】血管撮影装置(Allura Clarity FD20/10, Philips)の寝台に30 cm×30 cm×17 cmのアクリルファントムを配置し,表面中央に電離箱線量計(10X6-0.6CT, Radcal),その横にDOSIRIS,Vision badgeを各々3つずつ配置して撮影を行った.また,半導体検出器(Raysafe X2, Raysafe)にて半価層を計測した.Entrance-surface air kerma(Ka,e)および半価層からスラブファントム,円柱ファントムのHp(3)変換係数を算出し,電離箱線量計によるHp(3)/Ka,eを計測した.これらの結果をDOSIRISおよびVision badgeにおけるHp(3)/Ka,eと比較した.【結果】両X線管ともに電離箱線量計を用いて得られたスラブファントム,円柱ファントムのHp(3)/Ka,eは1.09,1.02 Sv/Gyであった.DOSIRISのHp(3)/Ka,eは正面,側面ともに1.3 ± 0.1 Sv/Gy,Vision badgeの正面と側面のHp(3)/Ka,eは1.03 ± 0.02,1.06 ± 0.02 Sv/Gyであった.
【結論】DOSIRISはエネルギー依存性によりやや値が高くなったが,両線量計ともに不確かさは30 %以下である.両線量計は放射線防護上有益な精度を有していると考えられる.
36: 頭部CBCTにおける二重斜位軌道回転撮影の基礎的検討
大沼 彩音1, 今野 拓哉1, 斎藤 将太1, 篠原 俊晴1, 照井 正信1
1) 秋田大学医学部附属病院 中央放射線部
【目的】当院で新たに導入された血管撮影装置のCBCTには,従来の単一軌道回転撮影に加えて,二重斜位軌道回転撮影であるSine Spinが実装されている.Sine Spinは骨構造に起因するアーチファクトを抑制し,特に後頭蓋下での頭蓋内描出能の改善が期待される.当院ではIVR後にCBCTを用いて頭蓋内の出血の評価を行うことがあるが,これらの撮影法の違いによる画質への影響は検討していないため,今回,基礎的な画質評価を行った.
【方法】血管撮影装置はARTIS icono D-Spin(SIEMENS社)を用い,円柱水ファントム(180mmφ),Catphan 600(phantomlab社),頭部ファントム(京都科学社)を撮影した. CBCTの撮影モードは,従来撮影法である8s Dyna CTと,新法の7s,9s Sine Spinとした.再構成条件はCTライクイメージ,再構成関数はすべてNormalを用いた.体軸方向SD値,MTF,CNRおよびGumbel法による後頭蓋下のストリークアーチファクトの比較評価を行った.
【結果】SD値は9s Sine Spin,8s Dyna CT,7s Sine Spinの順に低値となり,特に7s Sine Spinとその他において差が大きかった.体軸方向での変動について,Sine Spinでは撮像視野両端で急峻な変化がみられたが,8s Dyna CTでは緩やかであった. CNRと後頭蓋下の評価については8s Dyna CTと9s Sine Spinに大きな差はなく,7s Sine Spinで明らかな改善がみられた.一方で,MTFにおいては7s Sine Spinのみが低い値をとり,その他は同等であった.
37: 当院の放射線診断科IVR直接介助業務における取り組み
三浦 巧磨1, 葛西 健之1, 伊丸岡 俊治1, 佐藤 兼也1, 對馬 真貴子2, 岩村 暢寿3, 角田 晃久3, 澁谷 剛一3
1) 青森県立中央病院 放射線部
2) 青森県立中央病院 外来看護班放射線部
3) 青森県立中央病院 放射線診断・IVR治療科
【背景】2021年10月に診療放射線技師法が改正され,2024年3月に日本医学放射線学会を含む5団体からガイドライン(業務拡大で変わる血管造影・IVR を安全に行うための診療放射線技師のための手引き)が公開され,術者である医師の指示の下で医師の補助を行うことが可能となった.当院では,IVRにおける清潔野での医師の直接介助業務を看護師が行っているが,看護師が不足していることもあり,2024年度から診療放射線技師による直接介助を開始した.
【目的】診療放射線技師がIVRでの直接介助業務を実施するにあたり,当院での取り組みを報告する.
【方法】診療放射線技師がIVRでの直接介助業務を行う際の検査配置や他職種との調整,直接介助業務のマニュアル作成,人材育成の検討を行った.
【結果】診療放射線技師が直接介助業務を実施するため,技師内の勤務調整,医師及び看護師の理解,医療行為に該当しない補助行為に限られるため,取り決めを調整する必要がある.その反面,フレーミングや必要時に透視を出すことができるというメリットもあった.昨今,IVR検査が減少傾向にあるため,マニュアル等を整備し,当院で実施している情報共有・技能維持の取り組みを報告する.【まとめ】診療放射線技師がIVRにおける直接介助業務を実施するにあたり,他職種からの理解を得ること,安全に業務を実施するための整備が必要である.チーム医療促進のため,貢献していきたい.また,診療放射線技師がIVRにおける直接介助業務を実施している施設,これから実施を検討している施設との情報を共有しながら,タスクシフト/シェアを今後も実施していきたい.
10月11日(土) 11:00~11:40 第4会場
【セッション8】 一般撮影 自動判別・他 座長:大澤 洋 (健生病院)
38: ウェブカメラを用いたX線撮影部位自動判別法の提案:骨格座標推定部の改善
学生 長谷川 美侑1, 兼田 璃乃秋1, 山尾 天翔1, 高橋 規之1
1) 福島県立医科大学 保健科学部診療放射線科学科
【目的】我々は過去に,ウェブカメラを用いて撮影した被検者の整位画像から骨格座標を推定し,撮影部位を自動判別する手法を提案した.初期実験の結果,更なる判別性能の向上が必要であるとわかった.本研究では,新たな骨格座標検出ソフトウェアを用いて,提案法の自動判別性能の向上を試みた.
【方法】提案法では,骨格座標推定部が撮影部位の判別性能に大きく影響することがわかっている.本研究では,骨格座標推定部を,過去に用いたVisionPoseからOpenPoseに置き換えた.初めに,座標検出の基本的性能を評価するため,照明の明るさと服の色を変えてボランティアを撮影した画像に,OpenPoseとVisionPoseをそれぞれ適用し,骨格座標検出を視覚評価して比較した.次に,提案法による整位画像における自動判別性能を評価するため,それぞれの骨格座標検出ソフトウェアを用いて,胸腹部と両膝関節の整位画像各40枚を対象に,部位判別性能を求めた.画像の内訳は,胸部のAPとPAが各10枚,腹部のAPとPAが各10枚で合計が40枚であった.膝関節は,右膝関節の正面と側面で各10枚,左膝関節も同様で合計40枚であった.
【結果】視覚評価では,照明の明るさや服の色の違いに関わらず,OpenPoseがVisionPoseより,高い骨格座標検出能を示した.また,部位判別性能評価では,胸腹部においてOpenPoseは4部位すべてで100%の正解率となった.一方,VisionPoseでは70~100%であった.膝関節では,OpenPoseにより正解率が,最大で60%から100%に改善した.
【結語】骨格座標推定にOpenPoseを用いることにより,提案法の判別性能を大きく改善することができた.
39: 単純X線撮影における転倒防止アセスメントの構築
千葉 風夏1, 岩城 龍平1, 佐々木 恵1, 佐々木 祐輔1, 佐々木 忠司1
1) 岩手医科大学附属病院 中央放射線部
【背景・目的】 一般X線撮影における立位撮影では,患者の身体的・認知的状態により転倒のリスクが常に存在する.特に高齢者や移動・体位保持に制限のある患者に対しては,安全な撮影体制の確保が不可欠である.本報告では,撮影前に診療放射線技師がリスクを適切に判断し,最適な体位選択と人員配置を行うための「転倒アセスメントシート」および「転落防止フローチャート」を作成した.
【方法】当院の転倒・転落アセスメントシートを参考に,年齢,移動手段,装具使用,既往歴,意思疎通の可否,認知機能など12項目を転倒リスク因子として抽出し,「転倒アセスメントシート」と「転倒防止フローチャート」を作成した.
【結果】作成した「転倒アセスメントシート」により,転倒リスクのある患者に対する対応を「2名以上で対応」「検査指示の変更」「検査中止を相談」の3段階に分類し,具体的かつ明確な判断基準を提示することができた.さらに「転倒防止フローチャート」と併用することで,撮影前の判断が標準化され,撮影技師の不安軽減および業務の効率化への寄与が期待される.
40: 画像処理条件変更が胸部X線画像診断補助システムの解析結果に与える影響
菅原 将人1, 齊藤 裕美1, 川又 健一1
1) 公益財団法人 岩手県対がん協会 事業部放射線課
【目的】当協会では2023年4月より胸部X線画像診断補助システムを利用して,検診胸部X線画像の解析を行っている.2025年3月に胸部X線画像の処理条件,撮影条件を変更したところ,変更前の条件では異なる結果が出るのではないかという懸念が生じた.今回,同一画像における画像処理条件変更前後でのサイズの変化を含む結節の解析結果の差異を確認したので報告する.
【使用機器】CANON社 MRAD-A50S, CANON社 CXDI 401C compact, LPIXEL社 EIRL chest screening
【対象及び方法】2025年4月1日から4月30日の間に当協会で胸部X線検査を実施した702名(男女比2.30:1)の画像について,画像処理条件変更前の条件でも画像解析を行い解析結果の差異を確認する.
【結果】結節の検出について差異のあった被検者64名(65例)において,結節の検出そのものに差異があったのが27例,検出した結節のサイズに差異が生じたのが35例であった.その内訳は変更前のみ検出した結節9例,変更後のみ検出した結節18例,変更前のサイズが大きいものが20例,変更後のサイズが大きいものが15例であった.画像処理条件によらずサイズが一致した例が3例あった.検出結果に差異が生じた64名の男女比は1.67:1であった.
【考察】画像処理条件の違いによる明らかな傾向は確認できなかったが,結節の検出に関しては702名中64名の解析結果に差異が生じた.この64名のうち12名は検診の結果要精密検査となっており,うち2名は画像処理条件変更前の解析では検出無しとなった.画像処理条件の違いによる解析結果の差異は検診における判定に影響を及ぼす可能性がある.今回の結果をベンダーとも共有し,適切な画像処理条件についても質問したが,明確な回答は得られなかった.
【結語】画像処理条件によって胸部X線画像診断補助システムの解析結果に差異が生じることが明らかとなった.被検者に不利益を生じさせないためにベンダーも交えて適切な使用について検討を重ねたい.
41: DR領域におけるタスクベース解像特性評価のタスク位置依存性に関する検討
髙橋 俊吾1, 戸嶋 桂介1, 照井 正信1
1) 秋田大学医学部附属病院 中央放射線部
【目的】DR領域では,階調処理をはじめとした非線形処理が画像に多く用いられており,タスクベースの円形エッジ法を用いた task transfer function(TTF)による解像特性評価法が報告されている.しかしながら,X線束や検出器に対するタスク位置の違いによって,タスクの拡大や半影,形状の変化影響が生じる可能性が考えられる.よって本研究では,タスク位置の違いがTTFに与える影響を捉えることを目的とした.
【方法】画像取得には回診用X線撮影装置CALNEO Go Plus(富士フイルムメディカル)並びにFPDパネルCALNEO Smart C77(富士フイルムメディカル)を使用した.散乱体はTough Water Phantom (京都科学)を使用した.タスクは直径30 mm,厚さ2 mmのチタン円盤とし,検出器中心を通る垂直方向(陽極/陰極方向)に5点,片側水平方向に2点,上下対角方向に各2点を配置し,水平方向で対称となるよう計11点に設置した.撮影条件は80 kV,6.3 mAs,SID 120 cmとし,X線を検出器中心に垂直入射させた状態で,各タスク配置・タスク無の条件についてそれぞれ20回撮影した.得られた画像から円形エッジ法にてTTFを算出し,各タスク位置間で比較した.
【結果】全体として,検出器中心から離れるほどTTFは低下する傾向がみられた.水平方向で対称となるタスク配置を比較すると,陽極側でTTFが高い傾向を示した.さらに,検出器中心に配置したタスクを基準として比較した場合,中心から最も離れた陰極側では50%TTFが約22%,10%TTFが約25%低下し,最も低い結果となった.
10月11日(土) 15:00~16:00 第4会場
【セッション9】 核医学・SPECT 座長:奈良岡 辰則 (十和田市立中央病院)
42: Tc-99m脳血流SPECTにおける修集条件の違いによる物理評価,視覚評価への影響について
佐藤 匠1, 竹山 修嗣1, 田口 實行1, 三浦 才登1, 大井 崇矢1
1) 八戸市立市民病院 医療技術局放射線科
【目的】Tc-99m脳血流SPECTにおける収集条件の違いが物理評価,および視覚評価の結果へ及ぼす影響について検討する.
【方法】物理評価は脳血流SPECT標準化ガイドラインに則り,%Contrast,%CVを評価項目とした.Hoffmanファントム,Poolファントムを作成し,それぞれ60分間収集した(2min/rot).ピクセルサイズは2.95mmと5.89mmの2通りとした.画像再構成におけるButterworth Filter(以下BW)のカットオフ周波数は0.35~0.5cycle/cmの範囲で0.05毎に変化させ,再構成画像を取得した.%Contrast算出の際のReference画像の収集,再構成条件は,ピクセルサイズ2.95mm,収集時間60分,BWのカットオフ周波数0.5cycle/cmとした.視覚評価は,当院の核医学検査担当技師5名にて,作成した再構成画像全てに対し5段階評価で行った.%Contrast算出の際のReference画像を基準とし,白質と灰白質のコントラストの視認性,画像全体のノイズの視認性の2つの観点で評価を行った.視覚評価のスコアの平均値を目的変数とし,ピクセルサイズの大きさ,収集時間,BWのカットオフ周波数の3つを説明変数とした重回帰分析を行い,各説明変数の視覚評価に対する影響度について検討した.
【結果】%Contrastの値は,ピクセルサイズが小さくなると改善が見られた.また,ピクセルサイズが小さいデータの方が,BWのカットオフ周波数の変化による改善効果がより大きくなる傾向が見られた.%CVの値は,ピクセルサイズが大きいデータでは比較的短い時間で収束が見られるのに対し,ピクセルサイズの小さいデータでは収束する収集時間が長くなるが,より良好な値で収束することが確認できた.視覚評価のスコアは,ピクセルサイズが小さく,収集時間が長いデータの方が,コントラスト,ノイズともに視認性が改善される傾向となった.重回帰分析では,視覚評価に対してピクセルサイズが最も影響の大きい因子という結果となった.適正なピクセルサイズを設定した上で,収集カウントの最適化を図ることが重要と考えられた.
43: 骨SPECTで腫瘍信号の放射能濃度と収集時間の違いが検出能に与える影響
学生 小坂 紘貴1, 五十嵐 透亜1, 山本 裕樹2, 宿野部 星了3, 森 竜太郎4, 高橋 康幸5, 奥田 光一5, 細川 翔太5
1) 弘前大学 保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学医学部附属病院
3) 青森県立中央病院放射線部
4) 弘前大学 大学院保健学研究科
5) 弘前大学 大学院保健学研究科放射線技術科学領域
【目的】骨SPECTにおける腫瘍信号の放射能濃度・収集時間の違いが検出能に与える影響について,ROC解析を用いた視覚評価により検討した.
【方法】使用装置はNM/CT 860(GE社製)で,SPECT収集条件は,エネルギーウィンドウは140±10%,マトリックスサイズは128×128,ピクセルサイズ4.42mm,サンプリング角4度の90投影方向,円軌道,収集時間は1回転1分の10連続反復回転とした.ファントムは,SPECT用性能管理ファントムJS-10型(京都科学社製)を使用した.円柱信号は,大きさは直径15mmで,放射能濃度はバックグラウンドに対して4,8,16倍のTc-99m MDPを封入した.ファントム内は3層とし,各濃度の信号3本を中心部,表面から2.5cmの浅部と6cmの深部に重ならないように配置した.画像再構成法はOS-EMで,画像補正処理はTEW散乱線補正法とChang減弱補正法を施した. 観察者は,弘前大学放射線技術科学専攻教員4名と同大学放射線技術科学専攻学部4年4名の計8名で,観察前に実験内容を説明し同意を得た.視覚評価は,連続確信度法で,信号があるという確信度を0~100%でスコア化した.使用した画像は,収集時間1~10分,濃度は上記の4倍, 8倍, 16倍の信号がある断面5枚ずつ,信号のない断面5枚の合計200枚とした.なお,信号が特定の位置に描出しないように画像はランダムに回転させた.ROC解析ソフトはROC Viewerで,各信号濃度での検出能を比較した.
【結果】16倍濃度は1分からAUCが1となり,収集時間の違いによる検出能に統計的有意差は認められなかった.8倍濃度は4分以降からAUCが1に近い値を示し,4倍濃度は収集時間を重ねる毎にAUCは1に近い値を示したが,どの収集時間でも他の濃度と比較するとAUCは小さな値となった.8倍と4倍ではどちらも収集時間の違いによる検出能に統計的有意差が認められた.正常骨部に対する病変骨部の集積比は1.1~23.1の広い範囲が報告されているが,8倍濃度は4分程度の収集で病変の描出が可能であった.
44: 骨SPECT撮像の標準化に関するガイドラインによる検出性の検証 ―信号の形状の違いが及ぼす影響―
学生 五十嵐 透亜1, 神田 望来1, 山本 裕樹2, 清野 守央2, 森 竜太郎3, 奥田 光一4, 細川 翔太4, 高橋 康幸4
1) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学医学部附属病院
3) 弘前大学 大学院保健学研究科
4) 弘前大学 弘前大学院保健学研究科放射線技術科学領域
【目的】骨SPECT撮像の標準化に関するガイドライン1.0における描出能の評価は,球状信号が使用されている.しかし球状信号では部分容積効果の影響を受けると考えられるため,その形状やファントムの大きさの違いが描出能に及ぼす影響を検討する.
【方法】体幹ファントムは自作ファントム(23K25240)で,大きさは 直径200,250,300mmである.陽性信号は,円柱または球状を用いた.円柱信号は直径10,15,20,30mm,球状信号は直径10,17,22,28mmである.直径200mmの体幹ファントムには円柱信号または球状信号を設定し,直径250mm及び300mmのファントムには円柱信号のみを設定した.RIはTc-99m MDPで,濃度は信号:BGで4:1(18.0 kBq/ml)とした.使用装置はMN/CT860(GE社製)で,撮影条件はマトリクスサイズ128×128,ピクセルサイズ4.42mm,サンプリング4角の360度の円軌道で10分収集とした.また,使用核種はTc-99m MDPで.エネルギーウィンドウは140keV±10%である.画像再構成法はOS-EM法でIterationは5回,サブセット数は10とし,散乱線補正はTEW法で,減弱補正はChang法である.解析ソフトはProminence Processorで,測定に用いる画像は4つの信号が最も観察できるスライスで,縦軸を最大値または平均値により標準化したカウント,横軸を信号の直径とするリカバリーカーブ(RC)を作成した.
【結果】信号の形状の比較では,カウントが最大値と平均値どちらでも直径15~20mm付近で円柱信号のRCの傾斜角が上昇した.また,径の大きさが23mm付近ではRCに明らかな違いは認められなかった.体幹ファントムの大きさによる比較は,直径15mm付近でRCに違いはほとんどみられなかった.なお,リカバリーカーブで対数近似式は,体幹ファントム (300mm,Max):y=0.47ln(x)-0.59, 体幹ファントム(250mm,Max):y=0.45ln(x)-0.50である.信号の形状に関係なく直径10mmでは部分容積効果の影響が著しくカウントが低下していたが,円柱信号ではその傾向が若干軽減していた.
45: 深層学習を用いた骨SPECTにおける微小集積の認識
学生 神田 望来1, 小坂 紘貴1, 山本 裕樹2, 高橋 康幸3, 細川 翔太3, 森 竜太郎3, 奥田 光一3
1) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学医学部附属病院
3) 弘前大学 大学院保健学研究科
【目的】骨SPECTにおける信号の大きさ及び放射能濃度と収集時間の違いが検出能に与える影響について,深層学習を用いた画像分類評価により検討した.
【方法】SPECT装置はNM/CT860(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を使用し, LEHRSコリメータを装着した.SPECT収集条件は,エネルギーウィンドウは140keV±10%,マトリクスサイズは128×128,ピクセルサイズは4.42mm,90投影方向,円軌道で収集時間は1回転1分の10連続反復回転とした.画像再構成はProminence Processor 3.1(JSRT)を使用し,前処理フィルタはButterworth Filterでorder 8.0,cutoff frequency 0.50[cycles/cm],subsets 10,iteration time 5とするOS-EM法である.画像補正処理は,散乱補正にTEW法,減弱補正にChang法を施した. ファントムは,SPECT用性能管理ファントムJS-10型(京都科学社製)を使用した.バックグラウンドを18.0[kBq/ml]にして,直径7または15mmの円柱信号を重ならないよう3層に配置し,それぞれバックグラウンドに対して4倍,8倍,16倍濃度の99mTc-MDPを封入した.作成した画像は,収集時間1~10分毎に画像補正有 (4倍・8倍・16倍の各40枚,信号無40枚)と画像補正無それぞれ160枚の計320枚である.信号の検出性はNeural Network Console(Sony社製)の深層学習を用いて画像分類を行い,収集時間6~10分の画像補正有画像80枚を学習用データとし,収集時間1~5分毎の画像処理有画像80枚および,収集時間1~5分の画像処理無画像80枚をテスト用データとした.畳み込みニューラルネットワークの構造は,5つの畳み込み層,3つのプーリング層,3つの全結合層から構成した.評価指標は正解率,適合率,再現率,F値とした.
【結果】信号濃度4倍,8倍,16倍と信号無それぞれについての4分類の精度は画像補正前後で,正解率は7mmが0.875から0.953に,15mmが0.775から0.950に,いずれの信号においても補正後で高値を示した.また,正解率,再現率,F値においても補正前より補正後の方が高値を示した.
46: In-111 pentetreotide SPECTにおける散乱線補正法の効果の検証
学生 清川 和美1, 北川 玲礼1, 新岡 詳久2, 岡元 智也2, 鶴賀谷 正克2, 森 竜太郎3, 細川 翔太3, 奥田 光一3, 高橋 康幸3
1) 弘前大学 医学部保健学科
2) つがる総合病院
3) 弘前大学 大学院保健学研究科
【目的】In-111ペンテトレオチドによるソマトスタチン受容体シンチグラフィは消化器内分泌腫瘍(GEP NET)の評価に使用されている.しかし,In-111製剤による画質向上に関する報告は少なく,画像補正の標準的な技術はあまり議論されていない.本研究は,In-111ペンテトレオチド SPECTにおける散乱線補正についてESSE法とTEW法を比較した.
【方法】基礎的検討としてファントム実験により画質を評価した.ファントムは,円柱(23K25240)と肝臓(LKS型:京都科学社)を使用した.円柱ファントム(200mmφ)内には28,22,17,10mmφの陽性球信号を設け,放射能濃度はBGを22.0(kBq/ml)とし,陽性球内にはその3倍と6倍の濃度を注入した.肝臓ファントム内には10,30mmφの仮想腫瘍とする陽性球信号を設け,放射能濃度はBGを22.0(kBq/ml)とし,肝臓3倍,仮想腫瘍9倍とした.使用装置はBright-View X with WCT(phillips 社製)である.撮像条件はピクセルサイズが4.66mm,サンプリング角6度の60方向を30分間程度収集した.エネルギーウィンドは171keV±10%と245keV±7.5%である.画像再構成法はOE-EM法でIterationは10回,サブセット数は6である.減弱補正にはCT-ACを施した.画像解析はProminence Processor ver. 3.1を用いた.散乱線補正なし(noSC),TEW法補正有(TEW),ESSE法補正有(ESSE)のそれぞれで陽性信号の描出性を比較した.なお,In-111のエネルギーピークは別々に収集し,172keVピークをP1,245keVピークをP2としてP1,P2,P1 2の再構成データを作成した.評価方法は,エネルギーピークの組み合わせの違いにより作成した画像について,Recovery curve(RC)とProfile curve ratio(PCR)等を作成し,散乱線補正法の違いによる画質を比較した.
【結果】円柱ファントムのRCにおいて,ESSEはP1が描出性に優れ,P1 2ではTEWと明確な違いは認められなかった.PCRでは,TEWのコントラスト比が最も大きかった. 肝臓ファントムではRCとPCRともに信号の検出能に差は認められなかった.
47: 乳癌術前センチネルリンパ節シンチグラフィにおける撮像タイミングの違いによる描出率の比較
小田桐 香菜子1, 髙根 侑美1, 佐藤 由佳1, 加藤 恵里奈2, 外山 由貴2, 小田桐 逸人3
1) 東北大学病院 診療技術部 放射線部門
2) 東北大学病院 放射線診断科
3) 東北大学大学院 医学系研究科 画像解析学分野
【背景・目的】乳癌に対して乳房切除術と同時に腋窩リンパ節の郭清を行った場合,上肢の浮腫や可動域制限といった術後合併症を生じることが知られている.不要な郭清を避けるため,術前のシンチグラフィと色素法の併用によりセンチネルリンパ節を同定し,術中に迅速病理検査を行う方法が一般的である.しかしセンチネルリンパ節シンチグラフィにおいては投与方法や画像収集方法などといった撮像プロトコルが施設間で異なっている.当院では手術前日の夕方に製剤を投与し翌朝に撮像を行うプロトコルをルーチンとしてきたが,医師や技師の業務体制の変更,また装置更新とともに手術前日の午後に投与と撮像を行うプロトコルも並行して運用を開始した.そこで本研究ではTc-99m-フチン酸の投与から撮像までの時間の異なる2つのプロトコルにおけるセンチネルリンパ節の描出に関して検証する.
【方法】当院で2024年2月から2025年3月にかけて乳癌術前にTc-99m-フチン酸を投与してセンチネルリンパ節シンチグラフィを施行した女性患者176例(平均年齢:61.5±14.4歳)を対象とした.装置はStarGuide(GE HealthCare社)を使用した.得られたSPECT/CT画像を放射線診断医が読影し,センチネルリンパ節の描出の有無を評価した.対象症例を投与から撮像までを手術前日に行ったA群(90例)と手術前日に投与し手術当日に撮像を行ったB群(86例)に分け,センチネルリンパ節の描出率を比較した.
【結果】各群における投与から撮像までの時間の平均はA群で57分±8分,B群で17時間2分±18分であった.投与量の平均はA群で19.1±6.0 MBq,B群で33.4±5.0 MBqであった.センチネルリンパ節の描出率はA群で約91.1%,B群では約94.2%となった.先行研究ではシンチグラフィにおけるセンチネルリンパ節の描出率は90%程度であるとの報告があり,当院における投与から撮像までの時間が異なるいずれのプロトコルにおいてもセンチネルリンパ節の描出率は90%以上であることが確認された.
10月11日(土) 16:00~17:00 第4会場
【セッション10】 核医学・PET・他 座長:澤田 聖史 (青森県立中央病院)
48: 集積位置によるストリークアーチファクトの影響について
学生 池田 楓1, 菊池 耕太2, 柏木 裕哉1, 繁泉 和彦2, 橘 亮介3, 中山 葵心1, 池田 莉理1, 高庭 翔琉1, 秋山 直士1, 松本 健希1
1) 国際医療福祉大学 保健医療学部 放射線・情報科学科
2) 東北医科薬科大学病院 放射線部
3) みやぎ県南中核病院 放射線部
【背景・目的】心筋血流シンチグラフィ等で収集画像にフィルタ補正逆投影(FBP)による画像再構成を用いるとストリークアーチファクトが発生する場合がある.一般的に,ストリークアーチファクトの影響について,目的外臓器に集積した放射性医薬品(以下RI)が高集積となるほど,その影響も大きくなる.しかし,予備実験で高集積ではない目的外臓器のRI集積が収集範囲の辺縁にある場合,高集積と同等以上のアーチファクトを発生する事例が確認された.本研究の目的はFBP再構成でのストリークアーチファクトの影響について,RIの集積と位置関係による影響を検討することである.
【使用機器及び方法】本研究で使用したSPECT装置はGE社製SPECT/CT装置(NM/CT 870 DR)を使用した.円柱ファントム(アクロバイオ社製)を水で満たし,内部にTc-99mO4-溶液(185 kBq/ml)で満たしたシリンジを設置した.Tc-99m溶液の放射能と目的外臓器の集積を仮定したシリンジの位置を中心部から辺縁部へと変化させ,検討した.ストリークアーチファクトの影響についてはストリークファクトに沿ってラインプロファイルを得ることで評価を行った.
【結果】FBPの画像生成の過程からアーチファクトが強く発現する領域と弱く発現する領域が存在し,それが対象領域へのアーチファクトの影響の大きさに関与していることが明らかになった.ラインプロファイルからの結果でも,領域ごとの差が明確に見られた.
【結論】FBP再構成でのストリークアーチファクト影響の大きさは,目的外臓器の高集積だけでなく,集積の位置関係も重要な要因であることを明らかにした.
49: I-123における線源-コリメータ間の距離による空間分解能劣化のシミュレーション
藤森 大輝1, 野島 佑太1, 石井 崚太郎1
1) 新潟大学 医学部保健学科
【目的】核医学検査において,線源とコリメータ間の距離に応じて空間分解能が劣化するため撮像時には検出器を近接して撮像することが推奨されている.空間分解能の補正には,コリメータ開口補正が有用であるが,使用核種やコリメータごとに空間分解能の劣化の程度は異なる.本研究では,モンテカルロシミュレーションを用いて,I-123を用いた際のコリメータごとの線源とコリメータ間の距離に応じた空間分解能の劣化関数を測定し比較をした.
【方法】使用核種はI-123とし,シュミレーションソフトにはSIMINDおよびProminence Processorを使用した.使用コリメータはGE社製のLEHR,LEGP,MEGP,ELEGPを想定してシミュレーションを行った.半径1 mmライン線源を作成し,線源コリメータ間の距離を5cm~50cmまで5cmおきに変化させ,Planar収集を行った.得られた画像からFWHMの変化を求めることで空間分解能の劣化関数を測定した.次にSPECT収集にて,線源を回転中心から0 cm,10 cm,20 cm移動させ収集を行った.SPECT画像再構成において,FWHMの変化から求めた空間分解能の劣化関数を用いてコリメータ開口補正を行うことで空間分解能の改善効果について評価した.
【結果】各コリメータの空間分解能の劣化関数を比較した結果,いずれのコリメータでも線源とコリメータ間の距離が離れるに従い,FWHMは大きくなり分解能が劣化した.距離に応じた分解能の劣化は,LEHRが最も小さく,LEGPとMEGPが同等,ELEGPが最も大きかった.SPECT画像において開口補正を用いることで,線源とコリメータの間の距離が離れても同程度に空間分解能が改善した.
50: Lu-177の画像化におけるコリメータによる光子検出のシミュレーション
学生 石井 崚太郎1, 野島 佑太1, 藤森 大輝1
1) 新潟大学 医学部保健学科
【目的】核医学検査では,放射性核種から発生するγ線を用いて画像化する.内用療法として用いられるLu-177はβ線の他にγ線を放出するため画像化が可能である.画像化する上でγ線のエネルギーに応じた適切なコリメータの選択が必要である.コリメータに入射する光子には,直接検出される幾何学的検出(Geometric)や隔壁を貫通して入射されるペネトレーション(Penetration)及び隔壁内での散乱線(Scatter)がある.本研究では,モンテカルロシミュレーションを用いてコリメータごとのGeometric,Penetration,Scatterの影響を比較することで,Lu-177の画像化のための適切なコリメータについて検討することを目的とした.
【方法】使用核種としてはLu-177の点線源を用いた.シミュレーションにはSIMINDを用いた.画像処理にはProminence Processorを用いた.コリメータはGE社製のLEHR,LEGP,ELEGP,MEGP,HEGPを想定してシミュレーションを行った.γ線のエネルギーに対する光子の検出について入射角度45°のときのGeometric,Penetration,Scatterを比較検討した.空間分解能については,入射角度0°のときのFWHMを測定することで比較検討した.γ線のエネルギーについては113keV,208keVおよび2つのエネルギーの合算したものについて評価した.
【結果】光子の検出について入射角度45°の113keV,208keV,エネルギーを合算したグラフからGeometricはMEGP及びHEGPが高く,PenetrationやScatterの影響もMEGP及びHEGPが低かった.FWHMはMEGPの方がHEGPより小さく,空間分解能は高かった.
51: smartPhantomを使用した心臓縦隔比の自動計算
学生 新垣 康平1・2
1) 弘前大学大学院 保健学研究科放射線技術科学領域
2) 大館市立総合病院 放射線科
【目的】心筋交感神経シンチグラフィにおいて,I-123 MIBGは交感神経の終末に取り込まれるため正常心筋では良好な集積を示し,この集積から心臓縦隔比(HMR)を算出することで心疾患や認知症の鑑別診断に用いられている.本研究ではI-123 MIBG専用ファントムを撮像して得られたプラナー画像を対象とし,自動解析ソフトウェアsmartPhantomによる画像解析を行った.そして自動解析に手動による訂正を加えた上で,術者間におけるHMRの一致を評価した.
【方法】17施設36のコリメータで撮像されたファントム画像を用いた.2種類のファントムの表裏を撮像することで得られた144の画像データに,smartPhantomを使用しHMRを求めた.その後2名の術者により関心領域の手動訂正を加えることで,術者間でのHMRの一致を分割表とBland-Altman解析により評価した.
【結果】術者による自動計算と手動訂正の割合は,両者ともに手動訂正を加える必要が無いと判断した症例は58%,両者ともに手動訂正を加える必要があると判断した割合は8%であった(κ=0.11).また,手動訂正をおこなったファントム画像(N=60)では,術者間のHMRに有意な差は認められなかった(p=n.s.).Bland-Altman解析での平均値は0.001,95% limits of agreementは-0.032~0.035であった.最も差が大きかったケースはHMRの差は0.054であった.
【結論】smart Phantomを使用することで約60%の症例で手動訂正する必要が無いことが明らかになった.また,自動計算した後に手動訂正をおこなった場合では,術者間のHMRの一致は良好であった.明らかな関心領域の設定不良を除き,HMRを測定する際にはsmartPhantomを使用した自動計算のみで十分であることが示唆された.
52: PET検査におけるファントム実験の効率化に関する検討
学生 佐々木 駿之介1, 細川 翔太2, 山本 裕樹3, 森 竜太朗2, 小山内 暢2, 奥田 光一2, 成田 将崇3, 高橋 康幸2
1) 弘前大学 放射線技術科学専攻
2) 弘前大学大学院 放射線技術科学領域
3) 弘前大学医学部附属病院 医療技術部放射線部門
【目的】撮像条件の最適化にはファントム実験が不可欠であるが,核医学領域においては放射性同位元素の使用に伴う時間的および費用的負担が大きい.本研究の目的は,一回のファントム作成によって複数条件のPET画像を取得する手法を提案,評価することである.
【方法】PET/CT装置はDiscovery MI (GE社)を使用した.NEMA Body phantomを用い,陽性信号および背景部はそれぞれ4.13 kBq/ml,0.413 kBq/mlとした.基準撮像を600秒と設定し,それと同等のカウント数が得られるように,基準撮像の40分,30分,20分,10分前の時点で物理的減衰を考慮した上で収集時間を調整し,計5回の撮像を行った.撮像中にファントムを体軸方向へ移動させることで,濃度比の異なる複数の陽性信号を描出した.再構成にはTOFおよびPSFを併用したOSEM(SI積:32,Gauss. Filter:2 mm)ならびにQ.Clear(β=1~8000の範囲で11種類)を用いた.再構成画像はFOV 60 cm,マトリクスサイズ256×256とした.
【結果】横軸に理論値,縦軸に実測値のSUVmax(37 mm球)を取るとOSEMおよびQ.Clear(β=1000)でそれぞれ y= 1.20x 0.463 (R2 = 0.9931),y = 0.995x 0.274 (R2 = 0.9957)で近似され,特にQ.Clearにおいて良好な濃度直線性が確認された.
53: ディープラーニング技術を用いたPET-CT再構成画像の画質評価
鈴木 雄飛1, 山田 雄介1
1) 公益財団法人ときわ会 常磐病院 診療支援部 放射線課
【目的】当院では 2025年2月にCanon社製のPET-CT装置,Cartesion Primeを導入した.本装置に搭載されているAiCE(Advanced intelligent Clear-IQ Engine)は,ディープラーニングを活用した再構成技術であり,ノイズを効果的に抑えつつ画像の鮮鋭度を向上させることが可能とされている.今回はOSEMとの比較において,視覚的評価および肝SNRを用いた画質の定量評価を行い,SUVの標準偏差(SD値),体重あたりのFDG投与量との関連を検討した.
【方法】対象は当院でPET-CT検査を行った患者20名.それぞれOSEMおよびAiCEによる2種類の再構成画像を作成した.視覚的評価については当院のPET-CT業務に携わっている技師11名が画質(ノイズ感,病変視認性,輪郭)について5段階で評価.定量評価では肝臓右葉に3か所のROIを設定し,SUVmean,標準偏差(SD)より肝SNR(SUVmean/SD)を算出.さらに,FDG総投与量と体重からMBq/kgを算出し,肝SNRとの関係を分析した.
【結果】視覚評価においてはAiCEでの再構成画像の方が高評価を得た.SUVのSD値もAiCEで有意に低下しており,定量的にもノイズの抑制が示された.さらに,体重あたりのFDG投与量と肝SNRとの関係ではAiCEでは投与量が低い症例においても肝SNRの安定性が示され,再構成法による画質の一貫性が示唆された.
【結論】AiCE再構成は視覚的および定量的にOSEMを上回る画像画質を提供し,特にSUVのSD値低下と肝SNRの上昇によりノイズ低減効果が明確となった.また,体重あたりの投与量と肝SNRとの関係から,AiCEは低投与量環境下でも画質を維持し得る可能性があり,FDG投与量最適化への応用が期待される.
10月11日(土) 17:00~17:50 第4会場
【セッション11】 マンモ・災害・教育 座長:下沢 恵太 (八戸市立市民病院)
54: マンモグラフィ撮影技術の標準化に向けた課題抽出:半構造化面接とテキストマイニング分析
学生 渡邉 弥生1, 國嶋 杏奈2, 山品 博子3
1) 福島県立医科大学 保健科学部 診療放射線科学科
2) 公益財団法人 星総合病院
3) 福島県立医科大学
【目的】マンモグラフィの内外斜位方向(MLO)撮影は,腋窩から下腹部,乳頭から大胸筋までの広範な領域を描出する必要があり,診療放射線技師の観察力とポジショニング技術に大きく依存する.本研究では,MLO撮影時の実践的困難や工夫を定性的に抽出し,撮影技術標準化に資する基礎的知見を得ることを目的とした.
【方法】マンモグラフィ撮影経験年数の異なる診療放射線技師5名を対象に,内外斜位方向(MLO)撮影時の困難や工夫に関する半構造化面接を実施し,自由発話を逐語記録した.得られたテキストデータに対し,KH Coder(ver.3.00)を用いて形態素解析と共起ネットワーク分析を行った.共起指標にはJaccard係数およびDice係数を用い,それぞれにおいてクラスタリング手法としてmodularity(Louvain法)およびrandom walks(Walktrap法)を適用した.加えて,経験年数や認定技師資格の有無による語の出現傾向も比較検討した.【結果および考察】「見る」「乳房」「手」「腋窩」など,撮影時の視認・観察やポジショニングに関わる語が中心となった.「圧迫」「入れる」「伸ばす」など,物理的操作に関連する語も頻出していた.参加者をMMG撮影経験年数により「1年未満」「1年以上5年未満」「5年以上」に分類し,それぞれの語彙出現傾向を対応分析と特徴語リストにより比較した.「1年未満」では「意識」「乳腺」「圧」など基本的操作や身体部位に関連する語が多く,「1年以上5年未満」では「肩」「下ろす」「立つ」などポジショニング操作を意識した語が出現,「5年以上」では「見る」「手」「感じ」など経験に基づく判断や感覚的な語が顕著に表れた.
【結論】共起ネットワーク分析により,MLO撮影における実践的課題を定量的に可視化したものである.得られた知見は,撮影技術の標準化に向けた教育設計や技能評価指標の構築に資するものであり,今後のカリキュラム開発や指導方法の改善に寄与することが期待される.
55: 線量管理システムの使用経験と実績報告
橋本 英信1, 白土 恵1
1) 常磐病院 放射線課
【目的】医療被ばくの最適化を目的として,線量管理システムの導入が各施設で進められている.当院では2022年より線量管理システムを本格的に運用し,CT検査における患者線量(CTDIvol,DLP)を継続的に記録・分析し,線量の見える化を通じた最適化の推進に取り組んでいる.
【方法】本研究ではCTを対象に,2022年から2024年の3年間にわたる線量データを線量管理システムから抽出し,年度別に線量推移をグラフ化して可視化を行った.また,プロトコルの改訂履歴と照らし合わせ,線量の変化との関連性を検討した.さらに,線量が過度に高くなった症例に着目し,詳細な撮影条件や再撮影の有無,装置設定の適否などを解析した.
【結果】診断参考レベル(DRL)を大きく超える高線量症例が一定数認められた.これらの症例の解析から,管電流の設定が自動にもかかわらず過度に高くなっていた事例や,位置ずれや再撮影などの例外的な要因が関与していたことが明らかとなった.これを踏まえて,2023年にはIRパラメータの最適化,位置決め撮影の徹底などを含むプロトコルの見直しを実施した.その結果,DLPの中央値は改善し,DRL超過症例も大幅に減少した.放射線科医による画質評価でも,診断精度に影響はなく,読影に支障のないことが確認された.
【結論】線量管理システムの導入と長期的なデータ活用により,当院におけるCT検査の線量管理体制が強化され,プロトコル改善による被ばく最適化が図られた.また,線量の可視化は技師間の情報共有や線量意識の向上を促進し,若手技師に対する教育的効果も高いことが示された.
56: 原子力災害を想定した医療機関の病院機能維持支援に関する研究
学生 前川 瑠星1, 辻口 貴清1, 世永 祥3, 工藤 幸清4, 伊藤 勝博2
1) 弘前大学 大学院保健学研究科
2) 弘前大学 災害・被ばく医療教育センター
3) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
4) 弘前大学 大学院保健学研究科放射線技術科学領域
【背景】大規模災害時に病院機能を維持することは,地域医療体制の継続に不可欠である.病院支援には,非常用発電機燃料や医療用水の供給,医療資機材の配分など多様な対応が求められるが,支援対象の選定や優先順位の判断には課題がある.特に原子力災害リスクのある地域においては,放射線防護体制を含めた事前の備えと,災害時の円滑な対応体制の構築が必要とされる.
【目的】青森県における自然災害および原子力災害の複合災害を想定し,病院機能を維持するための支援の在り方を検討する.
【方法】青森県内の有床医療機関について,広域災害救急医療情報システム(EMIS)等から基本情報を収集し,建物倒壊,浸水,電源喪失,原子力発電所からの距離,放射線防護体制など計9項目に基づいてリスク評価を行った.その上で,青森県東方沖を震源とする大規模地震およびそれに伴う原子力災害を想定したシミュレーションを実施し,病院機能維持に必要な支援の優先順位や課題を抽出した.
【結果】倒壊リスクのある医療機関は9件,浸水リスク8件,電源喪失リスク16件であった.また,原発30km圏内に所在する医療機関は2件あり,ライフラインに関する十分な支援が確保されない場合には,病院避難を検討せざるを得ない状況にあることが判明した.
【考察】地域医療を災害時に維持するには,入院患者の安全確保に直結するリスクを有する医療機関への優先的支援が不可欠であり,本研究により高リスク施設の抽出が可能となった.加えて,原子力災害時における近隣施設への物資支援については,行政や民間団体との連携を平時から計画しておくことが重要である.
57: 診療放射線部の電力需給分析と災害対応力の評価
学生 世永 祥1, 辻口 貴清2, 前川 琉星3, 成田 将崇4, 横山 昂生4, 伊藤 勝博2
1) 弘前大学 医学部保健学科
2) 弘前大学 災害・被ばく医療教育センター
3) 弘前大学 大学院保健学研究科
4) 弘前大学医学部附属病院
【背景】災害等の非常事態により電力の通常供給が絶たれた際,診療機能の制限あるいは変更を強いられる.
【目的】弘前大学医学部附属病院(以下,当院)における様々な電力データを調査し,特に電力消費の大きな医療機器を保有する放射線部の災害対応の在り方を検討する.
【方法】平時における当院の消費電力および非常用大型発電機の対応能力を詳細に算定した.次いで,算定した電力データを基に放射線部が保有する画像診断および放射線治療に係る主な医療機器の電力確保の優先度を検討した.
【結果】当院の令和6年度電力データを集計したところ,平時において放射線部は全診療科および部門の中でも最大の電力消費割合を占めており,病院全体の14%を占めていることが明らかとなった.また,高度救命救急センターに設置されているCT装置などを含む複数の医療機器は非常用大型発電機にて使用可能であり,発電機の燃料補給がない状況で約4.7日間の運用が可能であることが分かった.
【考察】CT装置をはじめとした一部の主要医療機器が非常用電源専用コンセントに接続されている点は,災害時にも一定の診療継続が可能であることを示している.しかし,非常用大型発電機による電源供給は燃料備蓄に依存しており,物流機能が寸断されるような大規模災害時においては必ずしも十分とは言い難い.つまり,電力供給の非常事態を考慮し,放射線部における個々の機器単位での稼働要件の明確化,電源供給の優先順位付けを行い,且つ,他部門との調整を踏まえた病院全体のマネジメント体制の構築が必要となる.今後,本研究データをより実効性のある事業継続計画(BCP)の策定に活かす.
58: メタバースにおける放射線利用と自然放射線に対する表現の試み
南部 武幸1, 千田 浩一1
1) 東北大学大学院 医学系研究科保健学専攻 放射線検査学分野
【目的】昨年の東北放射線医療技術学術大会において,メタバースを放射線教育の場として利用することはできないか考え,その空間を構築する試みについて発表した.しかし前回はコンテンツとして専門性の高い物理学的な内容に偏ってしまったため,今回はより身近な放射線について理解してもらうような教育コンテンツのメタバースへの追加を試みる.
【方法】メタバースにおいてはVirtual Realityを最大限に活用し,放射線の「見える化」により自主的直感的に学習できるコンテンツを構築するという前提は昨年と変わっていないため,前回同様利用するメタバースはVRChatを選択した.メタバース内の制作と運用をおこなうソフトとしてはUnityを,空間構築ソフトとしてBlenderを使用したことも前回同様であるが,Blenderで作成しきれなかった細かいオブジェクトに関しては3Dスキャナーを利用し物体を取り込んで使用した.また昨年の発表では文科省の「中学生・高校生のための放射線副読本」内の「原子と原子核」「放射線の種類と性質」という項目に準拠しコンテンツを制作したため専門性の高い物理学的な内容に偏ってしまったが,今回は「放射線の(医学)利用」や物体に含まれる40Kからの「自然放射線」など,より身近な内容に焦点を絞ってコンテンツを制作した.
【結果】放射線教育を目的としたメタバースへのコンテンツの追加を試みた.前回同様スペックのノートPCであったが,メタバース内では快適に動作することを確認した.なおVRChatでは今まで対応していなかったiPadでの限定試験運用が始まっていることから,今後もプログラム等の調整改良をおこなって限定試験運用にエントリーし,教育現場などでも広く使用されているiPadで動作できるよう検討する.
10月12日(日) 9:00~9:50 第1会場
【セッション12】 MRI 性能評価・画質 座長:台丸谷 卓眞(弘前大学医学部附属病院)
59: 磁化移動コントラストパルスとTRの短縮が頭部T2WI FLAIRの画質に与える影響
伊藤 知行1, 高橋 敬太1, 嘉藤 敏幸1
1) JA秋田厚生連平鹿総合病院 診療放射線科
【目的】磁化移動コントラスト(magnetization transfer contrast : MTC)パルスは頭部T2 weighted image fluid-attenuated inversion recovery(T2WI FLAIR)の脳組織コントラストを向上させ,repetition time(TR)を短縮することで短時間撮像への応用が報告されている.先行研究ではファントムや若年正常ボランティア,小児症例1例に関する検討のみであり,臨床画像の画質に関する詳細な報告はない.本研究の目的は頭部T2WI FLAIRでのMTCパルス併用TR短縮条件を臨床応用した際の,脳組織と病変部として大脳白質病変のコントラストへの影響を明らかにすることである.
【方法】対象は期間中にキヤノンメディカルシステムズ社製1.5T MRI装置Vantage Gracianと11ch頭頚部コイルを使用して頭部MRIを施行し,TR:10000msまたはTR:8000ms MTCパルス条件のT2WI FLAIRを撮像し大脳白質病変を認めた症例それぞれ36,40例である.大脳基底核レベルのスライスにて灰白質として前頭葉内側大脳皮質の信号値,白質として深部白質の信号値と標準偏差,病変部として側頭葉前角部の大脳白質病変の信号値を測定し,白質の信号雑音比(SNR),灰白質と白質および大脳白質病変と白質のコントラスト比(CR)とコントラストノイズ比(CNR)を求め比較した.
【結果】TR:10000ms条件と比較してTR:8000ms MTCパルス条件では,CRは有意に高値を示したがSNRおよびCNRは有意に低値を示した.
【結論】頭部T2WI FLAIRにおいてMTCパルスの使用はTRを短縮しても脳組織および病変コントラストを向上させるが,SNRの低下も大きくCNRも低下するため,SNRの担保が必要である可能性が示唆された.
60: 異なるブランケットコイルの性能比較
船戸 陽平1, 須藤 勝彦1, 台丸谷 卓眞1, 佐々木 稜1, 成田 知将1, 大湯 和彦1
1) 弘前大学医学部附属病院 医療技術部 放射線部門
【背景・目的】全身領域で広範囲な撮像にAIR Anterior Array Coil:AIR Coil (GE社)が用いられているが,この他,汎用型のAIR Multiple-Purpose Coil:MP Coil(GE社)が使用可能となった.各Coilで大きさやチャンネル数が異なるため,それぞれの特性を把握し体格や撮像部位による使い分けを検討する必要があった.本研究の目的は2つのCoilの特性を明確にすることである.
【方法】MR装置はSigna Artist 1.5T(GE社),CoilはAIR Coil,MP Coil,Spine Coilを使用した.SNRおよび均一性測定には直径27cm,17cmの球形ファントムを使用し,27cm球形ファントムではCoilを密着させてSpine Coilを併用し,17cm球形ファントムではCoilを巻き付けて撮像した.感度域測定には長方形ファントムを使用し,ファントム上にCoilを水平に配置し撮像した.解析はImageJを使用し,SNR測定には差分マップ法,均一性測定には区分法を用いた.また感度域はCoilの深さ方向および頭尾方向の信号強度のプロファイルを取得し評価した.
【結果】SNRは被写体が小さな場合にはMP Coilが優れたが,被写体が大きくCoilから離れた位置ではAIR Coilが優れた.均一性は感度補正を使用した場合にはMP Coilが優れたが,感度補正なしではややAIR Coilが優れた.深部方向の感度域は,AIR Coilと比較してMP Coilは表面が高くなった.頭尾方向はMP Coilで20cmまでの撮像範囲で信号が保たれていた.
61: 3Dプリンターを用いて造形したファントムの形状再現性に関する基礎的検討
学生 北川 玲礼1, 清川 和美1, 森 竜太朗2, 大湯 和彦3, 台丸谷 卓眞3, 船戸 陽平3, 須藤 勝彦3, 奥田 光一2, 高橋 康幸2
1) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学 大学院保健学研究科
3) 弘前大学病院
【目的】模倣血管ファントムを3Dプリンターで作製する技術は教育や研究などでの活用が期待されているが,臨床データを基にしたファントムの形状再現性は検証されていない.本研究では,直径既知の自作ファントム(シリコンチューブ)と造形ファントムの形状一致性を検証した.
【方法】MRI装置はMAGNETOM Vida 3.0T(Siemens Healthineers社製,Head/Neck 64ch coil)を用いた.内径5 mmのシリコンチューブをU字型に成形し,脈動ポンプ(ALPHA FLOW EC-2, フヨー社製)を用いて,内頚動脈を想定した定常流でGd希釈造影剤を循環させ,3D TOF法で撮像した.取得した画像をCADソフト(3D Builder)で3Dモデルを作成し,3Dプリンター(Creality HALOT-MAGE S 14K)および樹脂(Super Flex Resin 80A)を用いてファントムを造形した.造形ファントムを自作ファントムと同条件で撮像を行った.解析は3D Slicerを用いて3D画像を描出し,直線部・曲線部11箇所の長径・短径,ファントム中心線の曲率,及びセグメント重複度(DSC:Dice Similarity Coefficient)により形状再現性を評価し,チューブを基準とした誤差率を算出した.
【結果】長径・短径について,基準を5mmとした際の誤差率はチューブと比較して造形ファントムで大きくなった.曲率は,チューブで0.0468,造形ファントムで0.0472となり,誤差率は0.767%であった.両ファントムのDSCは0.808であった.以上の結果より,完全な一致には至らなかったが,単純構造における造形精度としては許容される範囲の一致が得られたと考えられる.
62: MRI撮像時におけるメイクアップ化粧品の酸化鉄含有量の変化が吸引力およびアーチファクトに与える影響の検討
山岸 真奈1, 星 由紀子1, 古川 未来1, 木村 智圭1, 根本 整1, 永坂 竜男1
1) 東北大学病院 診療技術部 放射線部門
【目的】MRI撮像時,メイクアップ化粧品に含まれる酸化鉄などの金属成分は静磁場による吸引やアーチファクトを引き起こすことが知られている.黒酸化鉄,赤酸化鉄,黄酸化鉄を単一成分として吸引やアーチファクトを引き起こすという報告はあるが,酸化鉄含有量を変化させた報告はなく,酸化鉄含有量の違いによる影響は不明である.本研究の目的は,これら三色の酸化鉄と基材タルクの配合割合を変化させ,静磁場による吸引力およびMRI画像におけるアーチファクトの評価を行い,酸化鉄含有量が吸引やアーチファクトに与える影響を明らかにすることである.
【方法】黒酸化鉄,赤酸化鉄,黄酸化鉄をそれぞれ基材タルクと混合し,各酸化鉄の配合割合を変化させた試料を作成した.使用装置はPHILIPS製Ingenia 1.5T EvolutionおよびIngenia 3.0T.各試料の偏向角を測定し,静磁場による吸引力を評価した.また各試料を塗布したシートを自作アガロースファントム上に配置し,スピンエコー法とグラディエントエコー法で撮像することで画像の信号欠損面積を測定した.
【結果】黒酸化鉄は含有量の増加に伴い偏向角が増加し,60%配合時に1.5Tで71.8度,3.0Tで73.7度を示した.赤酸化鉄,黄酸化鉄は含有量に関わらず偏向角は0度であった.撮像における信号欠損面積は黒酸化鉄の含有量増加に伴い拡大した.赤酸化鉄,黄酸化鉄では黒酸化鉄ほど大きな欠損は認められなかったが,微少な信号欠損が一部に観察された.
【結語】黒酸化鉄の含有量が多いメイクアップ化粧品は吸引やアーチファクトを引き起こす恐れがあるため,MRI検査前に除去することが望ましい.
63: Fast 3D Wheelモードを用いた空間分解能の検討
石川 翔大1, 川村 匡敦1, 工藤 敬幸1, 太田 依譲1, 工藤 栞1, 三上 真里枝1, 加藤 勇輝1, 小澤 友昭1
1) 青森市民病院 医療技術局 診療放射線部
【目的】CanonのMRIにはslice-phase面内でk空間中心から高周波へwheel状に信号を3D収集し,外周部の信号を収集せず撮像時間を短縮するFast 3D wheelモード(以下Wheel)という機能がある.本研究はWheelが空間分解能に与える影響の評価を目的とする.
【方法】使用機器はVantage Orian1.5T V7.0.ファントムは傾斜板ファントム(日興ファインズ社製)を用いた.シーケンスは,SE系のFASE(fast advanced spin echo) 3D,GRE系のFFE(fast field echo)3Dを用いた.FASE 3Dは Wheelをoff,100~60%まで10%刻みで撮像し,FFE 3DはWheelをoff,90~60%まで10%刻みで,さらにAFI(Asymmetric Fourier imaging)を併用して90~70%で撮像した.得られた画像からslice,phase方向のプロファイルカーブを作成し評価をした.
【結果】FASE3D:phase方向は分解能の変化はなかった.slice方向はWheelをONにすると分解能が低下したが,Wheelの割合を変えても変化はなかった.FFE3D:phase方向は分解能の変化はなかったが,slice方向はWheelの割合を小さくすると分解能が低下し,AFIではさらに分解能が低下した.
【考察】Wheelを使用した場合,特定の方向において分解能の低下が認められたが,臨床で使用しているよりも変化が少なく感じた.これはWheel時に発生するノイズをDLR(Deep learning Reconstruction)によりノイズ除去するため,値を高めに設定していることがボケの一因となっていると思われる.そのため,臨床においてはwheelの設定と共にDLRの適切な設定も必要と考えられた.
10月12日(日) 9:00~9:50 第2会場
【セッション13】 CT アーチファクト・定量評価 座長:滝代 航也 (青森市民病院)
64:冠動脈CTにおけるモーションアーチファクト補正アルゴリズムの検証
浅野 佳寿雄1, 中島 真理子1
1) 公立藤田総合病院 放射線室
【背景・目的】冠動脈CTのモーションアーチファクトを補正するアルゴリズムとして以前よりBeat to Beatを使用してきたが,CT装置の更新により,心拍数が高い患者の冠動脈のモーションアーチファクトを低減することが可能なPrecise Cardiacが導入された.本研究の目的は心拍数が高い患者においてPrecise Cardiac によるモーションアーチファクトの低減の効果を検証することである.
【方法】CT装置はCT5300(PHLIPS社製)を使用した.2025年1月から4月までに冠動脈CTを撮影した患者で,撮影時の平均心拍数が高い患者を対象とした.各症例に対してBeat to Beatを使用した標準再構成とPrecise Cardiacを使用したAI再構成を行い,冠動脈の評価(1:評価不能な画像 2:アーチファクトがあるが評価可能な画像 3:弱いアーチファクトはあるが良好な画像 4:アーチファクトが無く優れた画像)を4段階で視覚評価した.視覚評価は拡張中期と収縮期を左右の冠動脈で行った.
【結果】心拍数中央値は78(範囲68~89)bpmであった.拡張中期(75%)において左冠動脈の平均スコアがPrecise Cardiacで2.82±1.19,Beet to Beetで2.27±1.29(P<0.05),右冠動脈の平均スコアがPrecise Cardiacで2.27±1.14,Beet to Beetで1.45±0.78(P<0.05)であった.左右どちらの冠動脈においてもPrecise Cardiacが有意に高いスコアを示した.収縮期(40%)において左冠動脈の平均スコアはPrecise Cardiacで2.36±0.64,Beet to Beetで2.27±0.6であり有意差がみられなかった.右冠動脈の平均スコアがPrecise Cardiacで2.27±0.75,Beet to Beetで1.64±0.77(P<0.05)であり,Precise Cardiacが有意に高いスコアを示した.
【結論】心拍数が高い患者においてPrecise Cardiacはモーションアーチファクトの低減に効果を示した.
65: CT画像における敵対的生成ネットワークを用いた金属アーチファクト低減法の検討
金子 祐大1, 齋藤 将輝1, 亀井 智也1, 濱尾 直実1, 田代 雅実2, 村上 克彦1, 遊佐 雅徳1
1) 福島県立医科大学附属病院 放射線部
2) 福島県立医科大学 保健科学部 診療放射線科学科
【目的】CT画像における金属アーチファクトは診断精度や治療計画の信頼性を著しく低下させる. 当院で用いているMetal Artifact Reduction(MAR)はサイノグラムベースであり,再構成に時間を要する. 現在Deep Learningを用いた敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network:GAN)による金属アーチファクト低減技術が注目されているが,主に頭頸部領域への適用に限られている. 本研究の目的は,画像ベースで動作するGANを用いて,高速かつ高精度な金属アーチファクト低減法の開発,および検討である.
【方法】大体骨頭置換術後の大腿部を模擬した自作ファントムを作成した. CT装置で管電圧, 管電流の条件を変化させて,自作ファントムを撮影した. 取得した画像枚数はMAR補正なしの画像315枚, 補正後の画像315枚の計630枚であった. データ分割はトレーニングデータ420枚,バリデーションデータ180枚,テストデータ30枚とした. GANの生成器には, U-Netを改良したResidual U-Net, 識別器にはPatch Discriminatorを用いた. 一致率の評価指標にStructural Similarity Index (SSIM), Root Mean Square Error (RMSE)を用いた, またArtifact index(AI)および画素値を算出し, 比較検討を行った.
【結果】MAR画像とGANのテスト結果を比較した値は, 平均SSIMが0.993, 平均RMSEが2.174となり, 高い一致率を示した. 平均AIと画素値においても同程度の値を示した. GANによるテストデータ15枚のMAR処理に要した時間は1秒以下であった.
【結論】本手法は, 従来法と同等の精度の金属アーチファクト低減を実現した. さらに従来法よりも非常に高速での処理が可能となり, 今後の臨床画像での応用が期待される.
66: 高速ヘリカルCT撮影とモーションアーチファクト低減アルゴリズム併用の効果検討
戸嶋 桂介1, 今野 拓哉1, 斎藤 将太1, 加藤 大樹1, 照井 正信1
1) 秋田大学医学部附属病院 中央放射線部
【目的】高速回転および高ヘリカルピッチを用いた高速CT撮影は,息止め不良や心臓周囲のアーチファクトの低減が期待されている.近年では,AI技術を応用したモーションアーチファクト低減アルゴリズムCLEAR Motion(CM)を併用することで,さらなる改善効果が報告されている.本研究では,動態ファントムを用いて高速撮影とCMの併用によるアーチファクト低減効果について検討した.
【方法】CT装置はAquilion ONE / INSIGHT Edition(Canon社)を使用した.動態ファントムはQSP-1(フヨー社)を用い,18 mm径シリンジ内に300 HU相当の希釈造影剤を封入し,垂直方向に振幅5 mmまたは10 mm,振動数60,80,100 bpmで動作するよう設定した.撮影条件は,管球回転速度0.24~0.50 s/rot,ピッチファクタ0.806~1.40とし,各条件下で10回ずつ撮影した.撮影画像は,ファントム中心0 cmと±1 cm,±2 cmの5断面から計50枚を抽出し,CMあり・なしの画像をそれぞれ作成した.全画像に対し,希釈シリンジの円形度,軸比,充実度を算出した.さらに,放射線技師2名による5段階スコアリングによる視覚評価も併せて行った.評価者間の一致度はCohenのκ係数で評価し,各条件のスコア比較においてCMのあり・なしはWilcoxonの順位和検定を用いて比較を行った.
【結果】すべての撮影条件下において高速回転,高ピッチの組み合わせで円形度,軸比,充実度が正円に近い値となった.特にCMありでは,軸比がさらに正円に近い値を示した.視覚評価では,CMなしの画像は高速回転・高ピッチの組み合わせで高スコアとなった一方,CMありの画像では高速回転・低ピッチの組み合わせで有意に高スコアとなった.
67: 胸部CTにおける体動補正技術の効果的な撮像条件の検討
五十嵐 江里子1, 芳賀 喜裕1, 伊藤 拓未1, 曽田 真宏1, 加藤 聖規1, 高平 咲希1, 荒井 剛1, 加賀 勇治1
1) 一般財団法人 厚生会 仙台厚生病院 放射線部
【目的】胸部CT検査において,呼吸停止不良や心拍動などのモーションアーチファクトは,診断に影響を与える因子の一つである.X線管回転速度の向上や2つのX 線管を利用したDual Source CTなどの時間分解能を向上する開発がなされてきたが,効果には限界がある.キヤノンメディカルシステムズが開発した体動補正技術(CLEAR Motion Lung:CML)は,人工知能(artificial intelligence:AI)技術を活用した深層学習再構成(Deep Learning Reconstruction:DLR)により,肺野領域のモーションアーチファクトを低減できるため有用性が高いと言える.しかし,撮像条件については言及がなく,ユーザーに委ねられている状況である.そこで,本研究の目的は,CMLを効果的に利用するための最適な撮像条件を解明することである.
【方法】CT装置はキヤノンメディカルシステムズ社製のAquilion ONE / INSIGHT Edition と自作のワイヤー回転ファントムを使用した.回転ファントムは,X-Y平面とZ軸方向にそれぞれ設置し,任意の速度で時計回りに回転させ,モーションアーチファクトに起因する撮像条件(X線管回転速度,ヘリカルピッチ,列数など)を可変して撮像した.各撮像条件に対し,CMLありとなしの画像を再構成し,評価を行なった.
【結果】X-Y平面ではCMLを使用することでX線管回転速度が速いほど,モーションアーチファクトの影響が少なくなったが,列数を可変しても,ほとんど変化はなかった.Z軸方向においても,X線管回転速度が速いほど,CMLが効果的であった.低速においては,CMLの影響でワイヤーにバンディングアーチファクト様の段差が認められた.
【結論】CMLの効果的な撮像条件は,X線管回転速度を高速にすることが有用であった.また,本実験で使用した自作のワイヤー回転ファントムを使用することで,体動補正技術の効果判定に利用できると考える.
68: 肝線維症の定量評価を目的とした細胞外液腔分画に仮想単色X線画像のエネルギー設定が及ぼす影響
佐々木 哲也1, 千葉 幸1, 髙橋 基嗣1, 佐藤 栄一郎1, 松橋 俊夫1
1) JR仙台病院 放射線科
【目的】肝線維症の定量評価を目的とした細胞外液腔分画(以下,CT-ECV)の有用性が報告されている.CT-ECVはDual energy CT(以下,DECT)の仮想単色X線画像からも算出できるが,仮想単色X線画像のエネルギー設定[keV]がCT-ECVにどの程度影響するかは検証されていない.本研究は,肝ダイナミックDECTにおける50~70 keVの仮想単色X線画像から算出されたCT-ECVを比較することで,エネルギー設定の影響を検証することを目的とした.
【方法】当院の肝多時相DECT(造影剤500mgI/kgを30秒注入)のうち平衡相を180秒前後に撮像した症例を対象とした.CT-ECVは,単純と平衡相から50/60/70[keV]の仮想単色X線画像を出力し,肝実質と大動脈のそれぞれについて造影前後の差分CT値[HU]の比率をヘマトクリット[%]で補正することで算出した.また,品質管理として出力されるSingle energy(140kVp)のQC画像についてもCT-ECVを算出し,同一症例から取得された4群のCT-ECVで比較を行った.
【結果】DECTの3群(50/60/70[keV])のCT-ECVに大きな変化はなく,仮想単色X線画像を使用してもエネルギー設定に依存しないCT-ECVを提供できることが示唆された.一方,Single energy(140kVp)のQC画像によるCT-ECVは,DECTの3群とは異なる値となったことから,CT-ECVはDual energyとSingle energy(140kVp)で異なる値となることが示唆された.
【結論】肝線維症の定量評価を目的としたCT-ECVは,仮想単色X線画像の実用レベル(50~70 keV)のエネルギー設定に依存しないが,Dual energyとSingle energyでは異なる可能性がある.
10月12日(日) 11:00~11:50 第2会場
【セッション14】 CT 臨床技術 座長:高橋 伸光 (奥州市総合水沢病院)
69: 耐圧型CVポートを用いた造影CTにおけるポート留置位置と注入圧の検討
服部 兼進1, 佐藤 尚志1, 高野 博和1, 茅野 伸吾1
1) 東北大学病院 診療技術部放射線部門
【背景】悪性腫瘍などに対する化学療法のために皮下埋め込み型ポートを留置する患者は多数存在する.近年では,造影CT検査に対応可能な耐圧型皮下埋め込み型ポート(以下,耐圧型CVポート)の開発により,同ポートを選択する症例が増加している.しかし,耐圧型CVポートの留置位置の違いや,造影剤の濃度および注入速度と注入圧との関係について,十分な症例数を用いた詳細な検討報告はない.
【目的】耐圧型CVポートが上腕に留置された場合,胸部に比べて造影剤の注入圧が高くなるのではないかとの仮説を立て,留置位置による注入圧の違いについて検討を行った.<br>【方法】当院で耐圧型CVポートを用いて造影CT検査を実施した症例のうち,造影剤の注入時間が60秒の267例および30秒の116例を対象とした.内訳は,60秒注入が上腕249例・胸部18例,30秒注入が上腕87例・胸部29例であった.使用インジェクターはDUAL SHOT GX7(根本杏林堂)であり,造影剤注入中に表示される最高注入圧(kg/?)を本検討の注入圧と定義した.2群間の症例数に大きな差があるほか,体重や年齢などの交絡因子にも偏りが認められたため,性別,年齢,体重,および使用造影剤のヨード濃度を共変量とした傾向スコアマッチングを実施し,群間のバランスを調整した.注入圧の群間比較にはウィルコクソンの順位和検定を用い,統計学的有意差はp<0.05とした.
【結果】注入時間60秒の群において,上腕留置群と胸部留置群の注入圧に有意差は認められず(p=0.92),30秒の群においても同様に有意差は認められなかった(p=0.93).
【結論】本後ろ向き検討において,耐圧型CVポートの留置位置は造影CT施行時の造影剤注入圧に有意な影響を及ぼさないことが示された.
70: 完全皮下埋め込み式カテーテル使用時の注入圧に関する基礎的検討
船島 健太朗1, 石黒 彩菜2, 小田 雄一3, 高野 博和4, 芳賀 喜裕5, 保吉 和貴6
1) 仙台赤十字病院 医療技術部放射線技術課
2) 仙台オープン病院 診療支援部診療放射線室
3) 新潟県立中央病院 放射線科
4) 東北大学病院 診療技術部放射線部門
5) 仙台厚生病院 放射線部
6) 山形大学医学部附属病院 放射線部
【目的】完全皮下埋め込み式カテーテル(CVポート: central venous ポート)をはじめとした中心静脈カテーテルの有害事象の1つにカテーテル破損があり,そのリスク因子として,造影剤注入時の注入圧が挙げられる.注入圧に影響を与える因子として,注射針の太さや造影剤の温度など様々な影響因子が報告されている.また,注入圧については,カテーテル先端を空気中として測定した報告や,血液同等の液体として測定した報告がある.しかし,これらの測定方法による差異は明らかではなく,実験で得られる値の妥当性の検証は依然として課題である.そこで本研究では,中心静脈カテーテル先端の留置方法について,水を用いて臨床状況を簡易的に模擬した環境(水中)と,空気中とした場合の注入圧を比較し,その測定値の妥当性を検証することを目的とした.
【方法】CVポートは,臨床で用いられているものと同じ製品を使用し,カテーテル先端を水中および空気中に留置して取得した注入圧を比較した.水中は,カテーテル先端が中心静脈圧(8 mmHg)を受けることを想定し水深10.5 ㎝とした.造影剤の注入にはインジェクターを用い,注入速度を1.9,3.0 ml/secとしたときのインジェクター表示値を注入圧として測定した.さらに,測定値の妥当性の検証として,臨床データと比較した.臨床データには,同一注入速度で施行された造影CT検査における注入圧を用いた.
【結果】水中と空気中の注入圧は同等であった.また,臨床データとの比較では,注入速度に関わらず測定値と,臨床データの中央値との差は認められなかった.
【結論】中心静脈カテーテル先端の留置方法について,簡易的に臨床を模擬した環境と,空気中から得られる測定値には差が認められなかった.より簡便に取得可能な空気中での測定値が臨床での注入圧を示す値として妥当であることが示唆された.
71: 冠動脈CT検査の管電圧選択基準確立を目的とした位置決め画像と冠動脈CT画像雑音量の関係
荒生 洸1, 菊地 雄歩1, 大場 誠1, 佐藤 俊光1, 鈴木 幸司1
1) 山形大学医学部附属病院 放射線部
【目的】冠動脈CT検査は中等度の冠動脈疾患リスク患者に対して,疾患の除外に有用な検査として慢性冠動脈疾患診断ガイドライン上で推奨されている.冠動脈CT検査では,低管電圧が冠動脈の抽出能向上のため選択されるが,高体重の被写体を低管電圧で撮影した場合,画像雑音により正確な評価が困難な場合がある.そのため,体格に応じた適切な管電圧の選択が重要であるが,明確な選択基準の報告はない.先行研究において,位置決め画像の平均X線減弱値から冠動脈CT画像の雑音量を予測して管電圧を選択する手法は報告されているが,適切なROIの大きさや配置は検討されていない.本研究では,位置決め画像から複数の方法で算出した平均X線減弱値と冠動脈CT画像の雑音量との関係を明らかにすることを目的とする.
【方法】CT装置はSiemens社製Definition Flashを使用した.対象は2025年2月から5月まで当院にて虚血性心疾患疑いで冠動脈CT検査を行った32名(70.5±18.5歳, 62.5±27.2 kg)である.位置決め画像は前後方向に管電圧80 kV,管電流20 mAで撮影した.平均X線減弱値を算出するROI配置は,既存手法として気管分岐部から1 cm下に3 cm幅を示す胸部,提案手法として気管分岐部から心尖部を示す胸部,気管分岐部から心尖部を示す心臓の範囲の3種類とした.冠動脈CT画像における気管分岐下の上行大動脈にROIを配置してSDを算出し,平均X線減弱値と冠動脈CT画像から算出したSDをプロットした散布図を作成した.作成した散布図より回帰直線を取得し,決定係数を比較した.
【結果】気管分岐部から心尖部までの心臓の範囲にROIを配置して算出したX線減弱値の決定係数は0.626を示し,他の算出方法と比較して高かった.
【結論】既存手法と比較して,提案手法は高い精度で画像雑音量を予測可能である.
72: 頭部CT-Perfusionにおけるスムージングフィルターの基礎検討
三上 葉月1, 津川 未来1, 横山 幸夫1, 佐々木 桜子1, 三上 真里枝1, 滝代 航也1, 加藤 勇輝1, 石田 汰一1, 小澤 友昭1
1) 青森市民病院 医療技術局診療放射線部
【目的】当院では脳卒中が疑われた場合, 頭部CT-Perfusionが第一選択とされている. 脳灌流画像の解析の過程上, ノイズを低減させるためにスムージングフィルターが使用されており, その強度を変えることにより梗塞領域, ペナンブラ領域の表示が変化することが確認されている. 今回, このスムージングフィルターの挙動を把握するとともに, 臨床で使用する最適なスムージング強度の値を検討することを目的とした.
【方法】頭部CT-Perfusionで得られた実画像に対し体積とCT値が既知である模擬梗塞巣, 模擬ペナンブラを配置したデジタルファントムを作製した. スムージング強度を0mm~20mmで1mmずつ変化させ, 解析によって算出された梗塞部位, ペナンブラ領域の体積と, 既知である模擬梗塞巣及び模擬ペナンブラの体積を比較した. CT装置はSOMATOM Definition Flash (シーメンスヘルスケア社製) , 画像解析にはsyngo.via (シーメンスヘルスケア社製) の脳灌流解析ソフト, デジタルファントム作製にはImageJ及びStirlingを用いた.
【結果】スムージングフィルターの強度を大きくするほど解析によって算出される梗塞部位の体積は小さくなった. また, 解析によって算出されたペナンブラの体積が, 設定した模擬ペナンブラの体積に最も近くなったのはスムージングフィルターの強度が10mm付近のときであった.
【考察】臨床においては, 性別や頭部の大きさ等により画像SDにばらつきがある. それぞれの場合に応じたスムージングフィルターの強度選択が必要になってくると考える. 今後の検討課題とする.
73: Photon Counting Detector CTを用いた腹部動脈相の造影剤量低減 ~従来CTにおけるDual energy技術との比較~
佐々木 稜1, 成田 知将1, 森田 竹史1, 大湯 和彦1, 台丸谷 卓眞1, 船戸 陽平1, 村松 駿2
1) 弘前大学医学部附属病院 医療技術部 放射線部門
2) シーメンスヘルスケア株式会社 ダイアグノスティックイメージング事業本部
【目的】腹部動脈相におけるPhoton counting Detector CT(PCDCT)とDual Energy CT(DECT)での低keV画像の画質評価を行うことでPCDCTの有用性を明らかにし,造影剤量低減の可能性を検討する.
【方法】CT装置は,PCDCTであるNAEOTOM ALPHA(SIEMENS社製)とDECT用にAquilion ONE INSIGHT Edition(CANON社製)を使用した.ファントムは,長径300 mmの楕円形の内部に希釈造影剤を封入したモジュールを6種類(300HU:基準,造影剤濃度を20,30,50,70,80%減)挿入した自作ファントムである.撮影は臨床の腹部動脈相の撮影条件下で,CTDIvolを10 mGyとし両装置で撮影した.再構成は40,50,60,70 keV画像を作成した.作成した各keV画像におけるCT値,及びCT値が300HUを示したkeV画像を比較した.Contrast to Noise Ratio(CNR)は各モジュールのCT値,ファントム内の水部分のCT値と標準偏差から算出した.Noise Power Spectrum(NPS)は,Radial Frequency法 を使用しファントム内の水部分から算出した.
【結果】CT値はDECTと比較し全keV画像でわずかに高値を示し,40 keVで両者の差は最大となった.最もCT値が低いモジュールで300HUを示したのは,40keV画像でPCDCTが70%減,DECTが50%減であった.CNRもDECTと比較し全kev画像で高値を示した.PCDCTは低keV画像ほど高値を示したが,DECTは60keV画像で最大値を示し,50 keV以下では低値を示した.NPSは全keV画像において高周波側でDECTよりも低値を示した.PCDCTは全周波数帯域においてkeVを変更したときのNPSの変化がDECTより小さかった.
10月12日(日) 13:00~13:50 第2会場
【セッション15】 CT 線量・撮影技術 座長:上田 達也 (岩手県立中央病院)
74: 位置決め撮影の種類と撮影条件がCT-AECと画質へ与える影響
阿部 俊1, 佐々木 涼1, 千葉 工弥1, 佐々木 忠司1
1) 岩手医科大学附属病院 中央放射線部
【目的】近年,CTでは被ばくと画質の調整のためにCT-AECが利用されているが,従来は二次元の位置決め画像を元に算出していた.最近では,低線量ヘリカルスキャンを用いた3D Landmark Scanが導入され,三次元的な位置決めが可能となった.臨床では,頭頚部~骨盤のように被写体厚が大幅に変化する場合があるが,被写体厚によらずCT-AECが正しく算出されることが重要である.そこで被写体厚が異なる場合,位置決め画像の種類と撮影条件がCT-AECと画質へ与える影響を評価した.
【方法】Mercuryファントム(Gammex社製)をAquilion ONE/INSIGHT Edition(Canon社製)を使用して位置決め画像を撮影した.位置決め画像の種類は3D Landmark Scanと従来の位置決め画像(0°,90°,180°,0°&90°)とし,撮影条件は管電圧120kVp,管電流10~50mAの10mA毎に変化させた.その後,位置決め画像毎に本撮影をしてスライス毎の管電流を比較し,ファントム(φ16cm,21cm,26cm,31cm)のAxial画像上にROIを設定してSDを比較した.
【結果】CT-AECの全体的な制御は,位置決め画像の種類や撮影条件によらず概ね同様の傾向が認められた.3D Landmark Scanと比較すると90°が最も近い挙動を示し,0°と0°&90°が高値を,180°が低値を示した.種類によらずCT-AECの安定した制御を得るためには,30mA以上が必要であった.本撮影のSDを比較すると,φ16cmと21cmで高値を示し,種類毎のバラつきも大きかった.φ26cmと31cmでは種類によらずSDが低値を示した.
【結語】位置決め撮影の種類と撮影条件はCT-AECに影響を与えるため,管電流が小さい場合や被写体厚が小さい場合に注意が必要である.
75: 低線量ヘリカルCTスキャンにおけるピッチと雑音の関係 -検出器列数による変化-
佐藤 凌太1, 保吉 和貴1, 加藤 香菜1, 佐藤 俊光1, 鈴木 幸司1
1) 山形大学医学部附属病院 放射線部
【背景・目的】ヘリカルCTスキャンにおいて,雑音標準偏差(SD)は一般的に線量の平方根に反比例するとされている.しかし,低線量・低ピッチ条件下ではこの関係が破綻し,雑音が増加する現象が報告されている.多列検出器CTの場合,その構造的特性から低線量条件下では1ビューあたりの光子数が減少し,雑音の増加が助長される可能性がある.本研究では,ピッチと雑音の関係に着目し,雑音挙動に対する検出器列数の影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】Canon社製320列CT装置 (Aquilion ONE ViSION Edition)を用い,直径25 cmの水ファントムに対してヘリカルスキャンを実施した.ピッチは装置推奨の3条件とし,設定できない場合はなるべく近い値を採用した.管電圧は80および120 kVとし,検出器列数による雑音の違いを比較するため80 列および100 列条件をそれぞれ設定した.各条件の組み合わせごとにCTDIvolを1,3,5 mGyに設定すべく管電流を調整し,filtered back projection (FBP)で再構成した.画像にROIを設定し,ROI内のSDを雑音の指標として評価した.また,雑音SDは線量の平方根に反比例する関係式から理論値を算出し,測定値と比較した.
【結果】列数によらず,3および5 mGy条件ではピッチによる雑音SDの差は小さく,雑音SDは理論値に近似した.一方,1 mGyではピッチの低下に伴い雑音SDが顕著に増加し,その傾向は80 kV条件でより強く,特に100列条件では雑音の増加が著しかった.
【結論】低線量・低ピッチ条件下における雑音の増加は検出器列数に依存し,多列検出器条件で顕著に表れることが示された.低線量ヘリカルCTスキャンを行う際は,ピッチと列数の適切な選択が重要である.
76: 低線量ヘリカルCTスキャンにおけるピッチと雑音の関係 -世代の異なる装置間での比較-
加藤 香菜1, 保吉 和貴1, 佐藤 凌太1, 佐藤 俊光1, 鈴木 幸司1
1) 山形大学医学部附属病院 放射線部
【背景・目的】CT画像の雑音は一般的に線量の平方根に反比例するが,低線量ヘリカルCTスキャンでは,特に低ピッチ条件においてこの関係が崩れ,雑音が増加する現象が報告されている.この現象には,実効エネルギーや検出器性能など複数要因が関与する可能性がある.本研究では,X線管・検出器・コリメータ等のハードウェアが異なる同一メーカーの2つのCT装置を用い,低線量条件下におけるピッチと雑音の関係に対する装置性能の影響を検討した.
【方法】CT装置は,Canon社製の世代の異なる320列CT装置 (Aquilion ONE)であるNATURE Edition (以下:NATURE)およびViSION Edition (以下:ViSION)を使用した.撮影対象として直径25 cmの円柱型水ファントムを用い,ヘリカルスキャンを80 kVおよび120 kVで実施した.ピッチは装置推奨の3条件とし,条件によって設定できない場合はなるべく近い値を採用した.それぞれのピッチでCTDIvolが1,3,5 mGyとなるように管電流を調整した.画像再構成はfilterd back projection (FBP)を使用した.撮影画像に対し,関心領域 (ROI)を設定し,ROI内の画素標準偏差 (SD)を評価した.
【結果】いずれの装置においても雑音は低線量ほど増加したが,特に1 mGyの低線量条件では,低ピッチ条件において顕著に増加した.低ピッチ条件での雑音の増加はNATUREよりもViSIONで強く現れた.また,同線量における装置間での雑音の差は,120 kVに比べて80 kVの方が大きく,最大2倍の差があった.
【結論】低線量・低ピッチ条件下における雑音の増加は装置性能に依存することが明らかとなった.低線量ヘリカルCTスキャンを行う際は,装置性能にあったピッチの選択が必要である.
77: 球形状小型Si半導体素子を用いた新たなリアルタイム線量測定システムにおけるCT画像への影響と放射線耐性についての基礎検討
学生 藤沢 昌輝1, 松本 卓己2, 進藤 僚太1, 松本 真之介3, 加田 渉2, 千田 浩一1, 稲葉 洋平1
1) 東北大学大学院 医学系研究科
2) 東北大学大学院 工学研究科
3) 東京都立大学 健康福祉学部
【目的】CT検査において患者被ばくの増加が懸念されており,適切な線量モニタリングが必要である.そこで新たに試作した球形状小型Si半導体素子を用いたリアルタイム線量測定システムのCT検査での展開を検討した.採用した半導体素子は球形状であり,CTの360度撮影にも対応可能である.本研究ではこのシステムを使用する際に懸念されるCT画像への影響(アーチファクト)と放射線耐性を評価した.
【方法】CT装置(Aquilion 64;キャノンメディカルシステムズ)で球形状小型Si半導体素子(スフェラー;スフェラーパワー株式会社)を貼り付けた頭部ファントムを撮影し,アーチファクトを評価した. ROIを設定し,ROI内のCT値の変化を線量計の有無でそれぞれ解析し,Artifact Index (AI)を算出した.また既存の半導体線量計で同様の実験を行い,本システムと比較した.放射線耐性試験は積算線量が約5 Gyとなるように同じ条件で繰り返しX線を照射した.各照射後の計測値の線形性とシステムのv-i特性から応答の変化を評価した.
【結果】半導体素子の電極部分において少しアーチファクトが発生したものの,本システムに対するAIはおおむね10以下であった.この値は既存の線量計のAIと比較して約1/2から1/4以下であった.放射線耐性に関しては計測値の変化はほとんど認められず,v-i特性についても照射前後で変化はなかった.
【考察】先行研究ではAIが10未満であれば臨床上問題にならないとしている.よって本システムはCT検査に適用可能であると考える.放射線耐性についても5Gy程度では劣化による応答の変化はなく,放射線診断領域では問題なく使用可能である.本システムは全方向からの放射線検出が可能であり,小型で画像への影響も小さいため,CT検査の患者被ばく評価に有効な選択肢となりうる.
78: ハーフ再構成画像における方向依存性を反映した解像度評価手法の検討
石川 諒椰1, 薄井 康輔1, 伊藤 菜穂1, 島田 一生1, 茅野 伸吾1
1) 東北大学病院 診療技術部 放射線部門
【目的】ハーフ再構成画像は,被写体の各方位で解像特性が異なることが報告されている.従来の円形エッジ法では,ロッド内全方位の解像度を平均して評価するため,計測方位による解像度の違いが反映され難い.本研究では,特定方位における解像度を体軸方向で評価することで,方向依存性を反映した解像特性の評価を試みた.
【方法】Aquilion Precision (キヤノン)にてTOSファントムを軌道同期条件下で20回撮像した.画像再構成は,filtered back projection (FBP) 法によるフル再構成およびハーフ再構成を使用した.撮像条件は120 kV, 180 mA, 1.0 s/r, 0.5 mm×40列,ヘリカルピッチを0.825, 1.15とした.解像特性評価の提案手法では,TOSファントム上のアクリルロッドをクロップし,そのうち極座標0°±9°の合計18°部分を取り出した.これを20枚複製・結合することで,一定方向のロッド成分のみで構成される仮想ロッドを作成し,元画像の同位置に埋め込んだ画像を作成した.元画像と作成画像で,それぞれハーフ再構成,フル再構成画像のtask transfer function (TTF)を評価した.さらに, structural similarity (SSIM)を用いて仮想ロッドの妥当性評価を行った.
【結果】仮想ロッドのSSIMはフル・ハーフ再構成でそれぞれ0.93, 0.92となり作成画像の妥当性を認めた. 提案手法・従来法ともにハーフ再構成において50%TTFのばらつきはフル再構成よりも高値を示した.また,提案手法では従来法よりも50%TTFのばらつきが有意に増加した.これらの結果から,提案手法は従来の円形エッジ法よりも方向依存性を反映した解像特性評価が可能になることが示唆された.
10月12日(日) 9:00~9:50 第3会場
【セッション16】 X線検査 座長:泊 公之 (青森県立中央病院)
79: パノラマX線撮影における診断参考レベル活用に向けた線量-幅積測定法の基礎検討
石井 浩生1・2, 稲葉 洋平1, 千田 浩一1, 小野寺 崇2, 茅野 伸吾2, 斎 政博3
1) 東北大学 大学院医学系研究科
2) 東北大学病院 診療技術部放射線部門
3) 東北大学病院 診療技術部
【目的】パノラマX線撮影における診断参考レベル(DRL)の線量指標の一つに線量‐幅積(DWP)がある.DRLs2020では,放射線着色フィルムにより得られた線量分布から面積空気カーマ積算値を測定し,これをスリット状X線ビームの長さで除することでDWPを算出している.一方,DRL活用のためには,より簡便かつ信頼性の高いペンシル型線量計を用いた測定法が有用である.しかし,X線ビームの長辺方向の線量分布は不均一であるとされている.本研究では,X線ビームの長辺方向の線量分布を明らかにし,ペンシル型線量計を用いた最適なDWP測定法を提案することを目的とした.
【方法】パノラマX線装置はAUTOⅢN(朝日レントゲン工業)およびPanoACT 3D Upgrade(アクシオン・ジャパン)を使用した.X線条件は成人用と小児用を使用し,管電圧と管電流時間積はそれぞれ2機種間で揃えた.ペンシル型電離箱線量計X2 CT Sensor(Unfors RaySafe)を用いてX線ビーム上を2 cm間隔でDWPを測定し,全測定点の平均値に対する各測定点の誤差を算出した.
【結果】DWPはX線ビームの中央よりやや下側をピークとした山なりの線量分布形状となり,平均値に対する各測定点の誤差は-11%~ 4%程度であった.
【考察】パノラマX線装置は硬口蓋等の障害陰影を避けるためにX線を水平から約5°打ち上げて入射させる.そのため,X線ビームの中央よりやや下側をピークとした山なりの線量分布になったと考えられる.また,線量分布形状は装置によって異なることが示唆された.DRLs2020におけるフィルムによるDWP測定法では,この不均一な線量分布が平均化されている.したがって,ペンシル型線量計を用いてX線ビーム上の数点でDWPを測定し,その平均値をDRL値と比較すべきである.
80: Monte Carlo法を用いたデジタルトモシンセシス撮影における実効線量の評価
学生 梅原 彩奈1, 寺島 真悟2, 藤原 杏1, 舘村 亮汰3, 寺島 智子3, 相馬 誠3
1) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学大学院 保健学研究科放射線技術科学領域
3) 弘前大学医学部附属病院 医療技術部放射線部門
【目的】近年デジタルトモシンセシス(DT)撮影の実施件数は増加している.一般にDTでの被ばく線量は,単純X線と同程度~数倍程度と考えられている.しかしながら,DTの被ばく線量評価の報告は少なく,実臨床条件での被ばく線量は不明瞭である.本研究では,ICRPの詳細に人体を再現したMesh-type Reference Computational Phantom(MRCP)を使用してMonte Carlo(MC)法で,DT撮影における実効線量を評価した.
【方法】DT撮影装置,一般撮影用X線装置はそれぞれSONIALVISION safire 17,UD-150LF(Shimadzu)を想定し,MCコードEGSnrcを用いてビームデータを作成した.被ばく線量の算出はMCコードPHITSを用いた.MRCPの体格は男性176 cm,73 kg,女性163 cm,60 kgである.組織加重係数はICRP2007年勧告のものを使用した.撮影条件は本学大学病院の条件を参考とし,DTで頻度の高い股関節撮影について報告する.DTでの股関節(正面)の条件は断層角度±20度,74フレーム,85 kV,320 mA,8 ms,SID110 cmとした.股関節は左右別で撮影を行い,照射野は体軸方向を12 inchとし,横方向は大腿部程度に絞った.単純X線撮影における股関節(正面)の条件は75 kV,320 mA,63 ms,SID130 cm,照射野は14×17 inchとした.
【結果】DTでの股関節撮影における実効線量は,撮影部位での左右およびその合計値はそれぞれ373,334,707 μSvとなった.単純X線での股関節撮影における実効線量は91 μSvであった.今後はMRCPの体位などの条件をより臨床に近づけ,撮影方向を含めた被ばく線量の評価やその他の撮影部位についても比較を行う.
81: メッシュ型標準人ファントムを用いたMonte Carlo法による一般撮影における被ばく線量の評価
藤原 杏1, 寺島 真悟2, 梅原 彩奈1, 舘村 亮汰3, 寺島 智子3, 相馬 誠3
1) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学大学院 保健学研究科放射線技術科学領域
3) 弘前大学医学部附属病院 医療技術部放射線部門
【目的】ICRP publ. 145において詳細に人体を再現したメッシュ型標準人ファントム(Mesh-type Reference Computational Phantom:MRCP)が発表された.現在のX線撮影装置はデジタル化が進み,撮影条件などもフィルムスクリーン系時代とは大きく変化しているが,実効線量の算出は難しく,線量評価指標の算出にとどまっている.本研究では,本学大学病院での撮影条件を用い,MRCPを使用した被ばく線量の評価を行った.
【方法】X線撮影装置は当保健学科が保有するShimadzu社製のUD-150LFを想定し,Monte Carlo(MC)コードEGSnrcを用いてビームデータを作成した.被ばく線量は,MCコードPHITSにより算出した.MRCP の体格は,男性176 cm,73 kg,女性163 cm,60 kgである.組織加重係数はICRP2007年勧告のものを使用し,撮影条件は本学大学病院のものを参考とした.代表的な結果の一例として胸部PA(130 kV,200 mA,10 ms,SID 160 cm),腹部立位AP(75 kV,400 mA,63 ms,SID 160 cm),腹部臥位(70 kV,400 mA,56 ms,SID 130 cm)について報告する.
【結果】通常は,男女の等価線量の平均値に組織加重係数を乗じて実効線量を算出するが,本研究では男女別で実効線量に相当するものも算出し評価を行った.胸部PA,腹部立位,腹部臥位における実効線量はそれぞれ,男性,女性及び平均値で27,35,31 μSv,160,149,155 μSv,121,170,145 μSvとなった.今後は,より臨床に近づけたシミュレーションの条件とし,また銅フィルタを追加した場合や,その他の撮影条件での被ばく線量の評価を行っていく.
82: 回診用X線撮影装置における面積線量値の性能評価
市川 渉1, 佐々木 忠司1, 岩城 龍平1
1) 岩手医科大学附属病院 中央放射線部
【目的】一般撮影における線量管理を適切に行うためには,入射表面線量の算出・実測および面積線量計の有効活用が考えられる.DRLs2025の調査においても,面積線量値の提出が求められている.一方,当院の回診用X線撮影装置(以下,ポータブル装置)には面積線量計が搭載されておらず,撮影条件および照射野サイズに基づき算出された面積線量(以下,装置表示値)が表示される仕様となっている.本研究では,ポータブル装置における装置表示値の性能評価を行うことを目的とした.
【方法】対象装置は MobileDaRt Evolution(島津製作所社製)とし,実測には半導体線量計 ACCU-GOLD (東洋メディック社製)を使用した.撮影条件として,胸部撮影における基準条件(管電圧 70 kV,2.0 mAs,FDD 100 cm)を設定し,以下の3項目を変化させた.① 管電圧(50~100 kV),② mAs値(0.5~5.0 mAs),③ 照射野サイズ(20×20 cm~43×43 cm).各条件で得られた装置表示値と,実測された空気カーマに照射面積を乗じて算出した面積線量(以下,実測値)を比較し,以下の式で誤差率を算出した.誤差率 = {(装置表示値-実測値) / 実測値} × 100
【結果】全ての条件において,実測値は装置表示値を上回った.各条件における誤差率は以下の通りであった.管電圧変化時:最小15.9%(50 kV),最大24.0%(80 kV),mAs変化時:最小14.4%(5.0 mAs),最大19.1%(0.5 mAs),照射野変化時:最小17.7%(30×30 cm),最大22.2%(20×20 cm).いずれの条件においても,JIS規格に定められている「5 μGy・m?以上の面積線量における総合的不確実性35%以内」の要件を満たしていた.
83: 顔面側面・後頭部での放射能汚染における指定箇所検査用汚染モニタの検出評価
学生 木村 朗大1, 小澤 歩波1, 仙木 志依1, 星 幸音1, 吉田 葵1, 中村 美緖2, 阿部 喜弘3, 越智 隆浩3, 千田 浩一2
1) 東北大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 東北大学 大学院医学系研究科放射線検査学
3) 仙台医療センター
【目的】原子力災害時には人体の体表面汚染を評価することが重要である.内閣府および原子力規制庁は「原子力災害時における避難退域時検査および簡易除染マニュアル」を制定し,指定5箇所(頭部,顔面,手指及び掌,靴底)における測定を求めている.このような背景をもとに「ベータパネル∑」(千代田テクノル社)が登場した.この装置は5枚の検出器パネルにより,椅子に腰かけた状態で指定5箇所の汚染検査が速やかに可能である.一方で,頭部側面や後頭部に汚染が存在する場合における検出感度の変化については,十分な性能評価が行われていない.そこで,顔面側面や後頭部などに汚染があるとき,ベータパネル∑における顔面用と頭部用パネルについて,検出感度がどのように変化するかを調べた.
【方法】人体を模したマネキン人形を使用した.始めに,マネキンに密封線源のSr線源を顔面正面および頭頂部に貼付し,着座姿勢にて測定を実施した.次に線源の配置位置を顔面側面および後頭部へと変更した.それぞれの条件にて顔面用および頭部用パネルの検出感度の変化を正面配置時の値と比較することで評価した.
【結果】顔面,頭部パネルでの測定結果において,汚染箇所が顔面の側面または後頭部に位置する場合,測定値は低下した.また,パネルからの距離が増すほど低下が顕著となり,線源の強度が変化した場合にも同じ傾向が観察された.
【まとめ】用いたベータパネル∑は,緊急被ばく医療2次施設に指定されている仙台医療センターにあり,当センターにて実際に使用されると想定される.この時,顔面側面や後頭部の汚染がある住民の検査も必要であるが,測定の際に検出感度が正規の状態よりも低下するという課題があることが判明した.課題に対する改善案については,さらなる検討が必要であると考えられる.
10月12日(日) 10:00~10:50 第4会場
【セッション17】 一般撮影・被ばく 座長:佐藤 俊光 (山形大学医学部附属病院)
84: 散乱X線除去用グリッド非装着による線量低減の検証 ―小児消化管X線撮影における画質評価―
石田 舞心1・2, 小野寺 崇1, 川畑 朋桂1, 千田 浩一2
1) 東北大学病院 診療技術部放射線部門
2) 東北大学大学院医学系研究科 放射線検査学分野
【背景・目的】X線撮影において,散乱X線除去用グリッド(以下,グリッド)は画像のコントラスト向上に寄与する.一方で,体厚が薄く照射野が小さい小児の撮影においては,散乱X線の発生量は少ない.さらに,消化管撮影時は造影剤を使用することから,元来被写体コントラストは高くなる.これらの要因から,小児消化管撮影時におけるグリッドの有効性は限定的であり,グリッドを使用することで透過一次X線が減少し,画質が低下する可能性がある.グリッド非装着時において,散乱X線によるコントラスト低下が少なく透過一次X線が減少しないとなれば,撮影線量低減が期待できる.そこで本研究の目的は,グリッド非装着時画像の画質評価を行い,小児消化管X線撮影における線量低減の可能性を探ることである.
【方法】寝台上に小児を模したPMMAファントム(厚さ40,50,60,70,80,100 mm)を配置した.造影された消化管は,濃度を数種類に変化させた経口・注腸用造影剤を封入したプラスチックケースで模擬し,かつ被写体から発生する散乱X線の画像への影響を加味するよう,PMMAファントムの中央に破産こむように配置した.このジオメトリにてグリッド装着/非装着時における透視・撮影を行った.撮影条件は,自動輝度制御(ABC)により設定した.取得した画像から信号差対雑音比(SDNR)を算出し,画質の比較・検討を行った.
【結果】撮影条件下では,ファントム厚50 mm以下の場合においてグリッド非装着時の方がSDNRは向上した.透視条件下では,すべての厚みにおいて,グリッド非装着時にSDNRは向上した.これらの結果から,小児消化管X線撮影時は,散乱X線による画質の劣化は少なく,グリッド非装着による撮影線量の低減が期待できる.
85: 小児胸腹部ポータブル撮影時における生殖腺防護有無の線量評価
舘村 亮汰1, 小原 航1, 木村 直希1, 齋藤 瑞穂1, 佐々木 稜1, 須藤 勝彦1, 小原 秀樹1, 山本 裕樹1, 成田 将崇1
1) 弘前大学医学部附属病院 医療技術部放射線部門
【背景・目的】米国放射線防護審議会(NCRP)は2021年にStatement No.13を発表し,腹部及び骨盤のX線撮影における生殖腺防護の中止を推奨した.この勧告は,米国医学物理学会(AAPM)や米国放射線学会(ACR)などに支持され,国際的に生殖腺防護の必要性が見直されている.当院では,整形外科股関節撮影においては生殖腺防護の廃止が認められている一方で,小児胸腹部ポータブル撮影時は依然として生殖腺防護が実施されている.本研究では,小児胸腹部ポータブル撮影において生殖腺防護の有無が線量に与える影響を評価することを目的とした.
【方法】装置は島津製作所製MobileDaRt Evolution MX8 Version,ファントムは京都科学社製小児ファントムを使用した.撮影条件は60 kV,5.6 mAs,SID 100 cm,照射野は半切サイズ,ファントムはヒール効果の影響を受けないよう管球の軸を体軸と垂直に配置した.小児ファントムの卵巣及び精巣の相当部位と腹部表面に,千代田テクノル社製蛍光ガラス線量計GD-352Mを配置し,生殖腺防護の有無による各部位の吸収線量及び入射表面線量を測定し,比較した.
【結果】卵巣及び精巣相当部位における吸収線量は最大でも0.25 mGyであり,ICRP Publ.103に示された一時不妊のしきい線量をはるかに下回った.また,生殖腺防護無しの場合,卵巣相当部位で0.12 mGy,精巣相当部位で0.24 mGyの線量増加がみられた.入射表面線量は0.33 mGy程度であり,医療被ばくガイドライン2006の5歳腹部の線量を下回った.
【結語】小児胸腹部ポータブル撮影において生殖腺防護の有無が線量に与える影響を評価し,線量への影響は少ないことが明らかになった.
84: 小児全脊椎撮影における被ばく線量の実測評価と推定式構築の試み
学生 馬目 葉月1, 広藤 喜章1
1) 福島県立医科大学 保健科学部 診療放射線科学科
【目的】小児全脊椎撮影での放射線被ばくは成長期の健康に影響を及ぼす可能性があり,正確な線量評価が重要である.しかし既存の簡易計算ソフトは全脊椎撮影に十分対応していない.本研究はファントムを用いて各臓器の吸収線量を実測し実効線量を評価し,多様な照射条件に対応する簡易推定式を構築することにある.
【方法】5歳児を模したATOMファントムに,28の主要な臓器(合計50か所)に蛍光ガラス線量計を封入し,AP・PAの2方向から照射を行った.管電圧(60,70,80,90kV)および撮影距離(100,150,200cm)を変化させ,全脊椎撮影の照射野にて,1mAsあたりの吸収線量を測定した後,実効線量を算出した.また,表計算ソフトを用いて,照射条件の変化にも対応可能な線量推定式を作成した.
【結果】管電圧を60kVから90kVに上げると,各臓器の吸収線量はおよそ3~5倍に増加した.撮影距離を100cmから200cmにすると,吸収線量は平均約67%減少し,距離の逆二乗則とほぼ一致した.照射方向では,PAで背面臓器(腎臓や脊髄など)が,APでは前面臓器(乳腺や甲状腺など)が高線量を示し,特に乳腺や甲状腺では約5~7倍の差が確認された.また,実効線量は同様に管電圧を上げると約3倍に増加,撮影距離を伸ばすと約75%低減,照射方向の違いでは,APがPAの約2倍と高値を示した.構築した推定式は,各臓器・組織の吸収線量および実効線量を90%以上の精度で推定可能であった.
【まとめ】本研究では,小児全脊椎撮影における臓器線量と実効線量を明らかにし,特にAPでは前面臓器の吸収線量が高くなることで実効線量も高値となることが示された.AP撮影は,被ばく低減策として常に適切とは限らない可能性がある.作成した線量推定式は,今後の線量管理や防護策の検討に有用であり,小児被ばくの最適化に貢献するものと考えられる.6
87: 胸部X線撮影における散乱X線を考慮した銅付加フィルタの有用性 :異なるグリッドによる観察部位別の画質検証
川畑 朋桂1, 上杉 直人1, 小野寺 崇1
1) 東北大学病院 診療技術部放射線部門
【目的】胸部X線撮影は経過観察などにより頻回に施行されるため,画質・被ばくの最適化が重要となり,一般的に120 kV程度の高管電圧撮影が行われる.しかし近年では,モンテカルロシミュレーションによる胸部モデルを用いた研究にて,骨と軟部組織との被写体コントラスト差は線質で大きく変化しないことが示され,90 kVに銅フィルタを付加したX線質を推奨する報告もある.そこで本研究では,胸部ファントムを被写体とし,異なる管電圧と付加フィルタ,グリッドの組み合わせにて,軟部組織の画質を臨床に近い条件で評価することにより至適線質の検討を行った.
【方法】被写体には胸部ファントムを使用し,軟部腫瘍を模したアクリル球 (直径10,30 mm )・円柱(厚さ9 mm ) をそれぞれ右第5,左第10肋骨上,左鎖骨上に配置した.検討に使用したグリッドは装置に付属のグリッド比10:1,12:1のものとし,焦点サイズは大焦点 ( 1.2 mm ) とした.線量設定にはAutomatic exposure controlを使用した.検討項目は管電圧90/100/120 kVにおける銅フィルタ付加0/0.1/0.2 mm時の骨と肺野に対する軟部組織のコントラスト,Signal-difference-to-noise-ratio (SdNR)とし,SdNRの平方根と入射線量よりfigure of merit(FOM)を算出した.
【結果】グリッド比の違いにより軟部組織のコントラスト・SdNRは大きく異なった.コントラスト低下には銅フィルタ厚の変化より管電圧の上昇が大きく影響し,測定位置・管電圧で傾向は異なるが銅フィルタ付加によりSdNRは改善傾向となった.高管電圧で軟部組織のコントラストは低下したが,骨に対するSdNRは上昇傾向を示し,対照的に,肺野に対しては低値となった.算出されたFOMは銅フィルタ厚が厚いほど良好な値となった.
88: 嚥下造影検査における銅フィルタ付加の有用性
山口 啓太1, 石井 浩生1, 川畑 朋桂1, 小野寺 崇1
1) 東北大学病院 診療技術部放射線部門
【背景・目的】 嚥下造影検査(Videofluoroscopy; VF)では透視撮影を行い,嚥下の過程を動画や画像として保存することで動態機能や誤嚥の評価が可能であるが,連続に近い高パルスレートで透視する点や撮影範囲が水晶体に近い点などから,患者被ばく線量の増加が懸念されている.透視装置に搭載されている付加フィルタの使用は,低エネルギーX線の遮断による線量の低減に有用であるが,同時に画質の低下を招くと推察される.そこで本研究の目的は,装置に搭載されている銅フィルタの厚さを変えながら透視撮影を行い,VFにおける線量と画質への影響を検討することである.
【方法】 VFを想定して側面像と正面像で実験を行った.装置はCUREVISTA Open(富士フイルムメディカル株式会社)を用いた.側面撮影では人体ファントムの左右の甲状腺,口蓋相当部に,正面撮影では同部位のファントム腹側に電離箱式線量計を配置した.標準のアルミニウムフィルタ0.5 mmに加え,銅フィルタの厚さを0.10 mm,0.15 mm,0.20 mmと変えながら透視撮影を行い,線量を測定した.透視条件は70 kV,2.2 mA,30 fpsを固定とし,出力を一定とした.また,電離箱式線量計と同位置にバリウムを含むゼリーを封入したシリンジを配置し,線量測定時と同様の手順でコントラスト対ノイズ比(Contrast to Noise Ratio; CNR)を求めた.以上二つの実験から各銅フィルタ厚における線量と画質の関係を調べるため,性能指数(figure of merit; FOM)を算出した.
【結果】 銅フィルタを厚くするほど線量は低減し,X線入射側でその傾向が強かった.また,銅フィルタを厚くするほどCNRは低下したがFOMは向上し,これは計測位置によらず同じ傾向であった.以上により,今後は臨床条件による視覚評価は必要となるが,VFにおいて銅フィルタを付加することで画質の劣化は認められるものの線量低減が期待できる.
10月12日(日) 11:00~11:50 第4会場
【セッション18】 線量管理 座長:田口 實行 (八戸市立市民病院)
89: β線計測器の校正用面線源を用いた携帯用小型GMサーベイメータに関する基本性能に関する検討
学生 佐々木 理桜1, 本宮 響太郎2, 千田 浩一1, 阿部 喜弘3
1) 東北大学大学院医学系研究科 放射線検査学分野
2) 東北大学大学院医学系研究科 災害放射線医学分野
3) 仙台医療センター
【背景】千代田テクノル社から,携帯用放射線計測器シリーズの一つとして,RADEYE B20Jが発売された.B20Jは従来のGMサーベイメータと比べて小型軽量なのにも関わらず,素早い応答性と幅広い測定範囲という特徴を持った,画期的なGMサーベイメータである.また,過去には密封小線源を用いた検討を行っているが,β線計測器の校正用面線源であるCl-36面線源等を用いて両者を比較した研究報告はこれまでにない.
【目的】本研究では,RADEYE B20Jは従来のGMサーベイメータと同等の性能を持つのか検討する.Scalerモード及びRatematerモードでそれぞれ比較を行い,従来のGMサーベイメータと同様に,再現性の良い測定が可能であるか,さらに応答時間についても検討する.
【方法】サーベイメータ校正線源である直径約5cmのCl-36面線源,Sr-90面線源を用いて,2分間の計測を1日10回,計10日間行った.線源検出器間距離を5mmになるように固定し,Scalerモードでは2分間のカウントの平均値を比較し,Ratematerモードでは線源設置からの立ち上がり及び立ち下がりの応答性をグラフ化し,それぞれ比較した.また,両者では機器効率が異なるため,得られた計測値を機器効率で補正して比較を行った.
【結果】Scalerモードにおいて,カウント数に差は見られたものの,機器効率で補正した場合,B20Jの計測値の平均値はCl-36面線源のときは3687.0,Sr-90面線源のときは6469.4を計測した.TGS-1146(従来型)はCl-36面線源のときは2190.3,Sr-90面線源のときは4322.6を計測した.B20Jは,従来型の約1.4~1.5倍のカウントを計測できていた.また,Ratematerモードにおいて,立ち上がり及び立ち下がりを比較すると,従来のGMサーベイメータと同じような立ち上がりを確認することができた.また,B20Jは計数率平衡時の変動が小さいことも確認できた.
【結論】小型軽量なB20Jだが,従来のサーベイメータと同様に再現性の優れた計測が可能であり,従来のサーベイメータと同等な応答性を持つことが考えられる.
90: 小型線量率サーベイメータのエネルギー推定モードに関する基礎的検討
学生 小澤 歩波1, 木村 朗大1, 星 幸音1, 仙木 志依1, 吉田 葵1, 佐々木 理桜2, 阿部 喜弘3, 越智 隆弘3, 千田 浩一2
1) 東北大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 東北大学 大学院医学系研究科放射線検査学
3) 仙台医療センター
【背景】広範囲線量率サーベイメータRadEyePRD-ERJ(千代田テクノル社)は,NaI(Tl)シンチレータを内蔵しており,測定線種はγ線とX線である.RadEyePRD-ERJは小型かつ軽量の空間線量率サーベイメータであり,内閣府により作成された,原子力災害時における放射線測定器の使用マニュアルにも記載されている.また,RadEyePRD-ERJはAlarm-NBRという機能を有効にすると,γ線のエネルギー推定が可能となる.エネルギー推定モードに関する基礎的な検討はこれまでに実施されていない.【目的】緊急被ばく二次医療施設である仙台医療センターに備えられているRadEyePRD-ERJを用いてγ線放出核種の測定を行うことでRadEyePRD-ERJのエネルギー推定モードの有用性について検討する.
【方法】RadEyePRD-ERJ台を用いて,線源検出器間距離を4段階で変えながらCs-137とBa-133の計測を行い,γ線のエネルギーが推定された時点での線量率と要した時間を測定した.この計測を3回繰り返し,機器間の個体差や,距離の変化により結果がどう変化するのかを検討した.なお,最大の計測時間は30秒とした.
【結果】線源検出器間距離が0cm,2cmと近ければほとんどの機器でエネルギー推定が可能であったが,測定できない機器も存在した.また,距離を6.5cm,15cmと離すほど測定感度は低下していき,測定に要する時間は日ごと,機器間での変動があった.
【結論】小型空間線量率サーベイメータにてγ線エネルギー推定機能を有するものは今までになかった.RadEyePRD-ERJはその機能を有する新しいサーベイメータであり,この実験によりエネルギー推定が可能であることが確認された.しかし,使用の際には距離をできる限り近づけて測定するとともに,機器間の個体差もあるため,定期的な校正・点検の必要がある.
91: 新型携帯用γ線スペクトルサーベイメータにおける核種同定機能の評価
学生 仙木 志依1, 小澤 歩波1, 木村 朗大1, 星 幸音1, 吉田 葵1, 佐々木 理桜2, 千田 浩一2
1) 東北大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 東北大学 大学院医学系研究科放射線検査学
【目的】「RAD EYEスペクトロサーベイメータSPRDJ(千代田テクノル社)」はγ線のエネルギースペクトルを測定することができる小型軽量の装置である.また,γ線の空間線量率測定も可能である.この装置は,スペクトルモードでエネルギースペクトルを計測・表示するだけでなく,核種の同定も行うことができる.また,核種同定の結果と共にその確信度が得られる.この装置は汚染事故において汚染核種を簡便に同定することが期待される.本装置は比較的新しいスペクトルサーベイメータであり,ユーザー側による核種同定機能の性能評価の研究報告はほとんどなされていない.本研究では,装置の核種同定機能について基礎的性能の検討を行う.
【方法】検出器の下部にCs-137,Ba-133,Na-22などの線源を置き,スペクトルモードで測定を行った.装置及び線源はアクリルケースを用いて固定し,距離を3段階に設定することで線源強度を変化させた.測定時間はAutomaticモードとした.核種同定の確信度は1~10の数字で装置に表示される.測定後のスペクトルデータを専用のアプリケーションを用いてパソコンに取り込み,核種同定の確信度と測定時間などを解析した.それらのデータから,線源強度と確信度の関係について検討した.また,線源強度と核種同定にかかる時間の関係についても検討した.
【結果】γ線源について,すべての核種で正しく核種同定を行うことができた.同一線源で比較すると,線源強度が弱いほど核種同定の確信度は低下する傾向が見られた.確信度の表示は1段階低下する傾向が見られた.また,線源強度が弱いほど核種同定にかかる時間は長くなった.核種同定にかかった時間は最大で300秒であった.
【まとめ】RAD EYEスペクトロサーベイメータSPRDJの核種同定機能は,汚染事故などにおいてγ線を放出する汚染核種の同定に有用であると考えられる.ただし,線源強度によって核種同定の確信度や測定時間が変化することを考慮して使用する必要があると思われる.
92: 電子式個人線量計の異なる機種間での方向特性と線量率特性
学生 高橋 李乃1, 小山内 暢2, 伊藤 美羽1, 加藤 乃々愛1, 對馬 惠2, 工藤 幸清2
1) 弘前大学 医学部保健学科放射線技術科学専攻
2) 弘前大学 大学院保健学研究科放射線技術科学領域
【目的】普及型の電子式個人線量計であるPDMシリーズ(アロカ)に属するPDM-127B-SZ(従来型),PDM-707(新型)及び広範囲の条件に対応するDMC3000(ベータモジュール付,テクノヒル)を対象として,方向特性と線量率特性を評価した.
【方法】方向特性の評価では,線量計を水平方向ならびに垂直方向に0度から360度まで10度ずつ回転させ, X線装置(UD150L-40E,島津)の透視モード(80 kV,1.0 mA,距離200 cm)で一次X線を1分間照射し,0度に対する相対値を求めた.線量率特性の評価では,距離及び管電流(透視:0.4~0.8 mAまたは撮影:80~320 mA)を変化させ,異なる線量率の場(1.5 mSv/h~8200 mSv/h,計13点)を再現した.管電圧は80 kVとした.基準線量計(RaySafe X2/サーベイセンサー,東洋メディック)での測定値に対する相対値を求めた.基準線量計の測定範囲外の高線量率場では距離の逆2乗則に基づき線量率を規定した.
【結果・考察】 PDM-127B-SZ,PDM-707の方向特性については,水平,垂直方向±30度の範囲で指示値の顕著な低下はなく相対値0.73~0.99であった.両者とも角度が増すにつれて指示値は低下したが,PDM-707では±70~90度において再び良好な方向特性を示した.DMC3000は水平,垂直方向±60度の範囲で相対値0.71~1.00と良好な方向特性を示した.また,いずれの線量計も特定の角度で指示値が上昇し,内部構造に起因するものと考えられた.高線量率に対しては,DMC3000で8200 mSv/h,PDM-127B-SZで510 mSv/h,PDM-707で250 mSv/h付近を境に相対値が低下し始めた.
【結論】用いる電子式個人線量計の特性を理解した上で線量評価を行う必要がある.
93: GM管式小型サーベイメータの検出感度差の複数台比較
学生 本宮 響太郎1・2, 佐々木 理桜2, 山本 啓介2, 阿部 喜弘3, 越智 隆浩3, 稲葉 洋平2, 鈴木 正敏1, 千田 浩一2
1) 東北大学大学院医学系研究科 災害放射線医学分野
2) 東北大学大学院医学系研究科 放射線検査学分野
3) 仙台医療センター
【目的】RADEYE B20Jは比較的新しく小型・軽量で,原子力災害時での表面汚染計測に利用されている.前年度のTCRTでは, RADEYE B20Jが基礎的検討によりJIS-Z-4329:2004の規格を満たしており従来品に劣らない性能であることを報告した.今回は同機種を複数台用いて,機種間の変動がないかを調べた.
【方法】原子力災害拠点病院である医療センターからRADEYE B20Jを複数台借用し比較した.計測方法は固定台にRADEYE B20Jを固定し,Cs-137密封線源を計測中心の真下に設置し計測を行った.感度差の調査では,Scaler modeで3つの距離を設定し120秒間のB.G.計測と線源測定を行い,1日5回計5日間の真の値から感度差を,変動係数を用いて比較した.立ち上がりの調査では,Ratemeter modeで2つの距離を設定し線源強度を変化させ,密封線源を約50秒測定した.また時定数はオートとし,各機種インターバルを設け3回連続の測定とした.保存データから波形グラフを取得し立ち上がりを比較した.
【結果】感度差の比較では,いずれの距離においてもJIS4329:2004で定められた変動係数0.2以下を超えるものはなかった.基本的に線源強度が強いほど変動係数が小さい傾向がみられたが,中には関係値が逆転しているものも見られた.また,規格化し比較するとJIS4329:2004で定められた相対誤差許容範囲の25%以内に収められていることを確認した.立ち上がりの比較では,線源強度が強いと波形に個体差はないということができるが,線源強度が弱いと立ち上がりが急なものからゆっくりなものが混在していた.また,線源強度が弱いと一度急激に立ち上がり,測定値がプラトーとなりさらに急激に上昇するような波形が多々見られた.
【考察】RADEYE B20Jは, 参考値としてJIS4329:2004に定められた許容範囲にあり個体差も確認されなかった. 中には検出器エラーがみられた個体もあるため,定期的な校正や動作確認が必須である. RADEYE B20Jは表面汚染サーベイメータとして,幅広い施設で利用することが期待される.