「乳がんの診断から治療まで」

東北大学大学院医学系研究科 乳腺・内分泌外科学分野

石田 孝宣

 

 乳がんは、年間約10万人が新たに診断される日本人女性に最も多い悪性腫瘍です。生涯の累積罹患は、欧米の7人に1人に迫る11人に1人まで増加してきています。

 現状では乳がんになることを予防するのは困難です。そこで、早期に発見することが重要となり、乳がん検診が大きな役割を果たします。乳がん検診には、税金などの公的な資金を用いる対策型検診と私的な資金を用いる任意型検診がありますが、いずれもマンモグラフィが基本となります。国の目標は、受診率50%以上ですが、これが達成できている地域は少数です。宮城県は、約60%の受診率を達成しており、日本でも有数の検診先進地域といえます。

 乳がんは体表の臓器の病気であり、自分で発見できる数少ない腫瘍です。診断には、視診、触診、画像診断があり、乳がんの種類によってそれぞれ特徴があるため、それらを正しく知ることで、効率よく、より早期に診断することが可能です。

 画像では、マンモグラフィと超音波が診断の両輪であり、それぞれの特性を活かして補いあうことが重要です。これに、CT、MRI、PETなどを組み合わせることによって、検診、手術前後の初期治療、転移・再発治療の各状況に応じて、より精密な診断を行うことが可能となります。

 乳がんの治療には、手術、放射線による局所療法と薬剤による全身療法があります。早期では、局所療法が主役ですが、進行・再発では薬物療法が主役となります。手術療法は時代とともに変遷し、現在では、乳房温存手術が全国の乳がん手術の約半数を占めています。

 また、乳がんの薬物療法には、3つの柱があります。1つ目は化学療法(抗がん剤)で、すべての乳がんに使うことができますが、効果があるかどうかは使ってみなければわかりません。2つ目は内分泌療法(ホルモン剤)です。これは、ホルモン感受性が陽性の場合が適応で、全乳がんの約80%が対象となります。3つ目は分子標的療法です。その代表は膜型糖蛋白であるHER2を標的にした治療です。全乳がんの15—20%がHER2陽性で、これらに使う事ができます。乳がんと診断された時点で、どのタイプに属するのかを調べることは、治療を選択する上で最も重要な因子となります。

 本市民公開講座では、こうした画像診断、および治療の進歩と今後の可能性について一緒に学びたいと思います。